スポーツ

2023.04.20

ラグビー選手会3代目会長が向き合った、アスリートの「よわさ」と「孤独」

ラグビー選手の川村慎

言葉が個人を救済する。与えられる言葉だけでなく、自ら弱みを言語化し認識することが社会の当たり前になることでもある。スポーツの世界でも心のケアの問題が重要視され始めている。

「本当のオレって違うんだよ。急にそんな思いで、心が塞がれて重荷になるんです」

屈強な体躯のイメージとは異なる言葉を吐くのは、ラグビー選手の川村慎だ。日本ラグビーフットボール選手会の3代目会長(2020年5月~22年5月)を務め、現在は横浜キヤノンイーグルス所属の彼は、学生時代に世界別日本代表候補にも選ばれたことがある。輝かしいキャリアに見えるが、彼は意外なことを話し始めた。

「ラグビー選手って、体つきががっしりしていて強そうだし、果敢なタックルに代表されるように、勇気があると思われがちです。選手がそう思われて尊敬されることはラグビー競技のためによいことだと選手たちも考えます。しかし、その期待に応えようとするあまりに、自分の弱さを表に出せないという側面もあるんです」

川村が会長を務めた日本ラグビーフットボール選手会は、ラグビー選手をサポートし、彼らが幸福な人生を歩めることを追求する使命を持つ。そこで重要視されていたのは選手のメンタルヘルス。「強くなければいけない」と考える選手たちのメンタルヘルスに対する意識改革が必要とされていたのだった。

ラグビー選手に限らず、勝負の世界で生きるアスリートたちは声に出さず悩みを抱えている場合が多い。ライバルよりもよい成績をなかなか出すことができなかったり、監督に選ばれず試合に出場することができなかったり。今年でリーグ13年目を迎える川村も例にもれず、苦難のときがあった。

「現役生活に100%満足した選手なんて、全体の0.01%もいないんじゃないかと思いますよ。あのキングカズ(サッカー選手の三浦知良)ですら、ワールドカップの選手に選ばれないという挫折を経験している。僕自身も試合に出られない時期があって、本当に悩みました」

弱みを吐露して状況が変わった

試合に出場できず生まれてしまったチームメイトへの嫉妬、そんなことを考えてしまう自分への葛藤に川村は苦しむ。ラグビーをすることすら辛く感じる日々。人に話すことではないと抱え込んでいたが、ある日、ぽろっとこぼれてしまった「オレ、頑張ってるのにな」という言葉から状況は変わる。

「クリティカルなアドバイスがもらえて、一発で安心できたということにはなりませんでしたが、それでも先輩やチームメイトと話すなかで自分が何に悩んでいるかとか、何に不安をもち、どんな不満があるのかが整理できました。あれ、もう答えが出ていることもあるな、とか、気にしなくてもよかったのか、とか」
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文=青山 鼓 写真=吉野洋三(Y's C)

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎私を覚醒させる言葉」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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