こうしたバイオガス事業に取り組んでいる兵庫県神戸市の弓削牧場と、そこで生じた消化液を使用する山田錦を栽培する3つの農家、その酒米を使用した4つの蔵元、そして辻本さんら神戸新聞社の連携により、1年後の2021年9月22日、今回のツアーの主役でもあるオール兵庫県産の新ブランド酒「地エネの酒 環(めぐる)」が4つの蔵元から発売された。
まさに食べるという営みから日々発生するごみ問題を解決する道筋を示し、化石燃料から自然エネルギーに転換する流れを味わう新たな日本酒の誕生で、海外からも求められるオーガニックや資源循環、生物多様性などを重視したサステイナブルな酒づくりが始まったのだ。
お題目だけではないSDGsの取り組み
実は、今回のツアーには、新企画として「播磨灘のカキと竹林の新しい資源循環」という現場体験も加えられていた。まず4ヘクタールほどの竹林を散策し、古い竹を伐採しながら若々しい竹林を保つことでタケノコを生産してきた歴史や、高齢化による手入れ不足の現状などについての話を聞く。そしてその後、伐採竹を活用した、播磨灘に浮かぶカキ養殖筏を船から見学する。海の上はかなり寒かったが、竹の交換作業や海の環境を守るための海底清掃などの漁業者の話は印象的で、何より現場でいただいたカキの美味しさは忘れられないものだった。
その後は、旅の本命「地エネの酒 環」をテーマに、前出の弓削牧場でのバイオガス事業の見学から、そこで発生した消化液を使用した兵庫県加西市にある冬期湛水の田で山田錦の無農薬酒米を栽培する、若い農業従事者の岩佐尚宣さんに案内していただいた。
「冬期湛水は、土壌を豊かにするだけでなく耕運や農薬散布の回数を減らすことができるので、使用する化石燃料の消費エネルギーがほぼ半減になるというメリットもあるのです。CO2の削減にもつながるし、こうしたエコロジカルな農法が注目され、トライする酒米生産者が増えるのは素晴らしいことだと思います」
こう語る岩佐さんのサステナブルな農業に向けての真剣なまなざしは、今回の旅でいちばんの収穫だった。