ちなみに、国税庁の令和4年(2022年)3月のレポートによると、令和3年(2021年)の日本産酒類の輸出金額は、約1147億円(対前年61.4パーセント増)となり、2022年以降、10年連続で過去最高を更新しているという。しかし、それでも世界の酒類市場から見るとその金額は依然としてわずか0.1パーセントにも満たない規模にとどまっているというのが現状だ。
結局、現時点において海外で成功しているのは、一部の特別な高級ブランド日本酒や蔵元が主であって、日本ならでわのバックグランドストーリーを含んだ高付加価値な商材が選ばれているということになる。
そんななかで、前出の辻本さんたちがめざしている新しい視点を持った日本酒づくりは、自然と人との接点である「農と食」のゴミを資源循環させ、地域の自然エネルギーを活用した「持続可能なものづくり」という点に大きな特徴がある。
コロナ禍を経て、国内外では、ますます安心、安全、環境に配慮した本物のものづくりが求められるようになった昨今、その方向性は地球環境問題を重視する世界の潮流に合致しているといえるだろう。
それは、「地エネと環境の地域デザイン協議会」のコーディネーターであり、無類の酒好きでもある辻本さんだからこそ気づいた視点でもあるのだろうが、当然、できあがるお酒は美味しくなければ意味がない。
バイオガスの副産物「消化液」の利用
では、その美味しさをどのように生み出すのか? 辻本さんたちは、エネルギーと栄養がたっぷり残る食品残さや家畜の糞尿からつくるバイオガスの副産物である「消化液」を生かす、いや環(めぐ)らせることから得ようとしたのだ。「僕たちが目を向けたのは、人の食べるという営みから日々発生している膨大なごみや、規格外で商品にならない農産物、家畜の糞尿、魚のあら、食品工場の廃棄物、そして下水など、一般の人たちがあまり目にすることがないまま廃棄されているものでした。でも、エネルギーの視点でみれば、それらはまだカロリーや栄養が残る素晴らしい有機物の塊なのです。大切なのはこれらをいかに循環させるかなのです」(辻本さん)
そして2020年から、前出の消化液を「冬期湛水」と呼ばれる冬でも水抜きをしない水田に使用することで、水田内の有機物が分解され、それらが稲の栄養となり、結果、無化学肥料、無農薬・減農薬の山田錦(酒米)が育ち、世界が求める安心、安全な、そしてとびきり美味しい日本酒が醸(かも)されるという画期的な取り組みをはじめたのだ。