「君は、この軽い雪だから、その我流の滑り方で滑れているが、重い新雪になったら、その滑り方では、まったく滑れなくなるよ。もっと、しっかりと基本を身につけた方が良い」
これは、極めて重要なアドバイスであったのだが、それを重く受け止めず、その後も、同じような滑り方を続けていた。しかし、後日、新雪が降ったとき、コーチの指摘通り、まったく上手く滑ることができず、何度も転ぶ結果になった。
これは、筆者の若い時代の失敗談であるが、このときの経験から、「我流」に流されず、「基本」をしっかりと学び、「基本」に忠実に処することの大切さを学んだ。
そして、後に実社会に出て、このことは、スキーだけでなく、プロフェッショナルの仕事のすべてに共通する鉄則であることを、理解した。
実際、分野を問わず、職業を問わず、一流のプロフェッショナルは、例外なく、しっかりとした「基本」を身につけている。
逆に言えば、それなりに頑張っているにもかかわらず、一流の世界まで到達できない人材は、これも、例外なくと言って良いほど、「基本」を疎かにしている。
あれから半世紀の歳月を重ね、自身が仕事の世界で、熟練のプロフェッショナルの道を歩むようになると、ときおり、器用に仕事をこなしているように見えて、我流に流され、基本を疎かにしている人材と巡り会うことがある。
そのとき、心に浮かぶのは、あの学生時代のスキー・コーチの言葉、「重い新雪になったら、まったく滑れなくなるよ」であるが、予想通り、この人材が、仕事で大きな失敗をしたり、成長が止まってしまう姿を、しばしば目にしてきた。
ときに、こうした人材に「仕事の基本」を教えるときもあるが、あの学生時代の筆者と同様、そのアドバイスを聞き流してしまう人も、少なくない。
こうした我流の人材は、結局、痛苦な失敗に直面して、ようやく、自身の問題に気がつくのであるが、残念ながら、しばしば「高い授業料」を払うことになってしまう。そして、何よりも、自身のチームに多大な迷惑をかけることになってしまう。
それゆえ、リーダーにとって、メンバーに、この「基本」を教えることは、優れたチームを作るために、最優先かつ不可欠の課題となる。
そのことを教えてくれるのが、かつて、プロ野球の巨人軍で、「守備の名手」として活躍し、後に、監督となって西武ライオンズを優勝に導いた広岡達朗氏のエピソードである。