すると、その若手選手の成長する姿を見て、ある日、ベテランの選手が監督室にやってきて、「俺たちにも教えてくれ」と言ったという。
これは、プロ野球界では有名なエピソードであるが、そこから、チーム全体が成長し始め、遂に、優勝を手にしたのである。
このエピソードに象徴されるように、ビジネスの世界でも、ベテランの人材で、「基本」を疎かにし、「我流」に流されている人材は、ほとんどの場合、「自分は、これでやってきた」「自分は、これで実績を挙げてきた」というプライドと慢心が、彼らの「成長の壁」になっている。
そして、こうした人材は、自分が「基本」を疎かにしているため、自身のさらなる成長の可能性を潰し、仕事の飛躍の機会を失っていることに、気づかない。
実は、「成長の壁」に突き当たっている人材の多くは、この「我流の落し穴」に陥っているのだが、その根本には、心の中の「頑迷なエゴ」がある。
すなわち、「我流」の「我」とは、「自我」の「我」、「頑(かたく)ななエゴ」に他ならない。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7700名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『死は存在しない』など100冊余。