スポーツ

2023.04.05 09:00

2000円ラーメン食べつつスタンフォード大コーチが思う「富士そばの値段」

退職するとき「引継ぎ」をしないアメリカ人

「すいません」。私も含めて、何かと言えば口から出る言葉だ。その言葉には幾つかの意味やニュアンスがあるが、悪くもないのにとにかく先に謝ってしまう。印象操作の戦略の一つなのだろうか、はたまた「枕詞化」してしまっているのか。

物の値段を上げる時にも、いちいち「申し訳ない……」から始まる。まるで何かの謝罪会見であるかのように。なぜシンプルに、「我々がコントロールできない事情により原材料が高騰しています。我が社のせいでもないのに従業員の給料を下げるわけにいかないので、値上げします!」と胸を張って言えないのだろう?

アメリカ人は退職や転職の際、引継ぎをしない。理由は大きく分けて2つ、次の仕事の方が大事だし、残る身としても「明日は我が身」であるから、それを理解してくれる。もう一つは、いつ人が辞めてもいいように仕事を進めている、つまり仕組みの中で仕事をしているからである。強いリーダーシップや卓越した技術等、一時的な戦力ダウンは止むを得ないとしても、すぐにリカバリー可能なシステムの下に仕事が進んでいる。

それに対し、日本は仕事が属人的である。とにかく個人の努力に頼って仕事が進んでいく。実際に個人の努力の総和が戦後の高度経済成長を生み、その弛まぬ努力が経済・技術・文化どれをとっても疑いのない「先進国」へとわが国を押し上げてきたわけであるから、良い・悪いの議論にはしたくない。むしろそのようにして努力を積み重ねてきた諸先輩には感謝しかない。

しかし、個人の努力に頼って組織が成長していくことが「今の時代に合うのか?」と聞かれたら、筆者は「No!」と即答するだろう。

動画サイト等で日本のニュース番組を見る度に、まるで誰かが亡くなった時のようなトーンで「○○○○が、○○○を値上げをします」「○○○○のハンバーガーが5%の値上げで、今年3回目です」という類のトピックを耳にすることが増えてきた。

だが、「言っても、考えても、どうにもならないこと」を公共の電波に乗せることに、意味はあるのだろうか。今、このタイミングで放送すべきことは、企業に向けて「物価が上がっているのだから、給料を上げろ!」もしくは国の代表たちに対して「ロシアに戦争をやめさせろ!」ではないだろうか。

百歩譲って、買物にいく国民に早めに教えてあげようという趣旨なのであれば、「○○○が×××を値上げします、その分国民の給与水準も上がるべきですね」と付け加えてほしい。

“Control you can control.” 早く来い来い、ラーメン2000円時代!

コロナ禍で国から支給された10万円の現金給付。一説には約8割が支給元の意思に反して貯蓄に回ったそうだ。そんな先行き不安感情が消費という意志を大きく上回る国民の上澄み数パーセントが経営している日本の会社、そこで儲かったお金の多くの行先は国民のそれと同じ貯蓄、つまり内部留保である。言い方を変えれば、出せるお金はあるくせに出さない、もしくは不安過ぎて出せないのである。

現に、ここ数カ月「給料上げろ!」という社会的ムーブメントがはっきりと見えてくると、横並びという言葉を絵に描いたように、賃金を上げることを発表する。みんなの気持ちを代弁すると、「なんだよ、上げられるんじゃないか……」である。

昨年度まで私のボスであった人が、よく使っていた言葉を思い出す。敗戦のミーティング等のネガティブなシチュエーションで繰り出す、キラーフレーズである。

「Control you can control」

「自分でコントロールできないことは考えることすら無駄。自分がコントロールできることだけにフォーカスして行動しよう」という訳が的確であろう。

今回の文脈でいくと、ロシアのウクライナ侵攻や天候不良、それらによる原材料費の高騰や物価の上昇、金利上昇の連鎖等は、我々庶民にはコントロールできないもの。考えることすら無駄である。そもそも我々のような(他の先進国に比べて)資源に乏しい島国では、この手の問題はなかなか自己解決できないことは、国民の多くが理解しているはずだ。こんな時こそ、自分達がコントロールできることを探して、創り出して、それにフォーカスしていくべきではないだろうか。

我が国の国際社会での競争力の向上、今の子供達が大人になった頃に世界水準と同等、いやそれより上の賃金が支払われるようになることを祈念して、今一度!

「早く来い来い、ラーメン2000円時代!」

文=河田剛 編集=石井節子

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