スポーツ

2023.04.05 09:00

2000円ラーメン食べつつスタンフォード大コーチが思う「富士そばの値段」

スタンフォード大学アメリカンフットボール部コーチ、河田剛氏。コーチ業の傍ら、シリコンバレーで日米双方のスタートアップのサポート/アドバイザーを務める

ユナイテッド航空機内で、ある若者と

「Minimum Wage」は、最低賃金を表す言葉である。2023年の1月に改訂されたサンフランシスコ市のそれは18.07ドルである。1ドル135円で換算すると、実に2440円になる。読んで字の如く、最低賃金とは、雇用形態を問わず、労働者が雇用主から受け取るべき賃金、法で定められた、(時間あたりの)最低報酬である。たとえ職歴がなくても、働くことのできるギリギリの(若い)年齢でも、日本円で約2440円を時給として渡さなければ、雇用主は罰せられることになる。
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その最低賃金あたりをもらっているだろう若者と、アメリカの国内線に一緒に乗る機会があった。近くの席に座った彼のモニターを覗き込むと、偶然にも私と同じドキュメンタリー番組を見ていた。何がどうしてどうなって米系航空会社の国内線でそれが放映されていたのかは未だに謎ではあるが、日本の千葉県にある、つけ麺で有名なとあるお店のストーリーであった。

要約すると、従業員は朝4時に出勤して日本じゅうから厳選した素材を丁寧に仕込んでいく。ランチ営業の前にあまりにも人が並んでしまうことから、朝6時から整理券を配布する。だが、その整理券も1時間もせずに捌けてしまう。細部にまで教育が行き届いた接客も素晴らしい。その人気のつけ麺は1000円を切る値段だ。

乗り継ぎのシカゴで、日本びいきで何度も来日経験があるというその若者とそのドキュメンタリーの内容について語り合った。2人の共通した意見は、「あれだけの素材、手間がかかっている商品を1000円を切る値段で売ってはだめだ!」である。
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日本では超安値ではないのかもしれないが、その尺度を世界基準で考えるならあまりにも安すぎる。繰り返すが、商品の価値、つまりそれを用意した人達への賃金、日本の経済、ひいては日本国民の価値が低く値踏みされているようで、心中おだやかではないのである。

「主張しない」「我慢する」「謝る」「個人の努力に頼る」──4つの悪

1995年、筆者がリクルートグループの会社に入社してすぐの時期である、社内でベストプラクティスを披露するコンテストがあった際に、「○○コンテストってなんですか?」と問うた私に対して先輩から返ってきた言葉は、今でもはっきりと脳裏に刻まれて、なお薄れていない。

「いいか、例えば自分が町内をボランティアで掃除をした時、それを誰も見ていない間にさらっと終わらせて、またそれを誰にも言わないことが、我々日本人の美学なんだ。それを私がいつ・どのように・どうして・そしてこんな結果がもたらされたと1ミリの恥ずかしさもなく発表するのがこのコンテストであり、リクルートグループなんだ」

両方とも深く納得であるが、前者の「主張しない日本人」の美学、つまり「謙虚でいること」については、物の値段を上げる、賃金を上げることに著しく不向きだといえる。

ビジネスであってもスポーツであっても、コツコツと積み上げた努力に花が咲く、そんなストーリーが我々は大好きである。故事、昔話、子供に読み聞かせる本、どれをとっても、「努力はすばらしい」と教えるストーリーが多いのではないか? 勝手な観測であるが、たとえば「諦めが良かったことが発想の転換につながって成功した」たぐいのストーリーとは比べものにならない数の、「我慢することの美学」を説くお手本が存在する。

毎朝飲むラテは5.5ドル。チップを少なめに見積もっても6ドル強。「金は天下の回りもの」という言葉を信じる以外、シリコンバレーで生きていく術はない

毎朝飲むラテは5.5ドル。チップを少なめに見積もっても6ドル強。「金は天下の回りもの」という言葉を信じる以外、シリコンバレーで生きていく術はない

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文=河田剛 編集=石井節子

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