100周年を迎えた「アクリス」に見る、ブランドと不易流行

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創業者アリスが大切にしていたザンクト・ガレン エンブロイダリーなど製法、モチーフ、素材を「コード・オブ・ザ・ハウス」と呼び、保存・継承しているのもアクリスならではの特徴だ。

たとえばAの字を思わせるトラぺゾイド(台形)のモチーフ、非常に稀少で耐久性の高い素材であるホースヘア、つくるのに高い技術力を要し、極上のファブリックの象徴でもあるダブルフェイスカシミアなどなど、アルベルト自身が「祖母から父に受け継がれ、そして私のDNAに組み込まれている」と語る種々の要素はアクリスをアクリスたらしめる重要なエッセンスとして存在している。

ここでアクリスが昨年発表した100周年コレクション(2023春夏コレクション)に目を転じてみよう。繊細なレースや、刺繍、ごくなめらかなカーフ、そして肌を品よく透けさせるシースルー素材、アートや建築にインスピレーションを得たウィットに富んだプリントなどはアクリスが一貫して取り上げてきた要素だ。
 「アクリス」100周年記念の第2弾として発表された2023秋冬コレクション。アーカイブから見つかった1970年代の型紙がインスピレーションの元となった。さらに当時のフラワープリントも復活した。

アクリス 100周年記念の第2弾として発表された2023秋冬コレクション。アーカイブから見つかった1970年代の型紙がインスピレーションの元となった。さらに当時のフラワープリントも復活した。


しかしそれらをまとう女性たちは、過去に生きるのではなく、まぎれもなく現在と未来を生きている。不変であるテーマ、スタイルを構成する要素を大切にしながらも、その時代の気分を取り入れる、変化を恐れない女性像、まさに「Woman with Purpose」の姿はここからも見てとることができるだろう。

このショーの様子を動画で見ながら、私は「不易流行」という言葉を思い起こしていた。不易流行とは、松尾芭蕉の俳諧理念を表す言葉で「世に変わるもの(流行)と変わらぬもの(不易)はともにあるが、その根元においては一である」ということを表している。

この解釈にはいろいろあるようだが、私が好きなものは「一見、不変(不易)に見えるものも、実はその時々に応じて細かく変遷(流行)している」という捉え方。本当に動かず、変わらなければそれは死を意味する。不変に見えるものも日々アップデートし、進化しているという考え方で、おそらくアクリスをはじめ、今の世に残る多くの老舗ブランドもこの意味で「不易流行」だと言えるだろう。

まずは栄枯盛衰の激しいファッション業界にあって40年もの間、クリエイティブ・ディレクターとして一線で活躍し続けるアルベルト・クリームラーに拍手を送りたい。そして、100年間「Woman with Purpose」を讃えてきたアクリスがこの先、見せてくれるであろう女性像のさらなる進化に期待したい。

きっとそれは“不変”なるエレガンスであろうけれど、その芯には変化を恐れない大胆さと、創造性への深いリスペクトがあるに違いないからだ。

文=秋山 都

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