100周年を迎えた「アクリス」に見る、ブランドと不易流行

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2月14日、故ヴァージル・アブローの後任としてファレル・ウィリアムスが「ルイ・ヴィトン」のメンズ・クリエイティブ・ディレクターに任命された。

驚いたのは私だけではないだろう。ファレルといえば、「Happy」(2013年)が大ヒットしたミュージシャンだ。バッファローハットと呼ばれるつばつきの帽子を流行させたことでも知られ、たしかにファッショナブルな印象ではあるものの「ルイ・ヴィトン」は世界最大級のファッションブランドである。

もちろん彼に期待されているのは1400万超のフォロワーをもつインフルエンサーとしての波及力であり、ファッションやアートや音楽を包括したひとつのカルチャーと捉える総合プロデューサーのような動きであろうが、この巨大企業のクリリティブ面をどう率いていくのか。6月のファーストコレクション発表に注目が集まっている。

この事件(私にとってはまさしく事件だった)をきっかけに、「ファッションブランドにおけるクリエイティブ・ディレクターに求められる役割とはなにか」とつらつら考え始めた。

ルイ・ヴィトンのようにドラスティックに舵を切るブランドもあれば、従来のモノづくりに情熱を注ぎ続けるクリエイティブ・ディレクター(以前はデザイナーと呼ばれていた)も変わらず存在している。

これは変わる・変わらないのどちらが良いという話ではないのだけれど、“変わらない”の代表として、2022年に100周年を迎えたスイスのファッションブランド「アクリス」を例に、ファッションにおける不変とはなにか、考えてみたい。

 「アクリス」はブランド誕生100周年を記念して、アイコンであるザンクト・ガレン エンブロイダリーを使った作品の特別展示「Akris Embroidery」を5月7日まで「アクリス サロン」(帝国ホテルプラザ1階)にて開催中。

アクリスはブランド誕生100周年を記念して、アイコンであるザンクト・ガレン エンブロイダリーを使った作品の特別展示「Akris Embroidery」を5月7日まで「アクリス サロン」(帝国ホテルプラザ1階)にて開催中。


アクリスは1922年、テキスタイル産業で栄えたスイス・ザンクト・ガレンに、縫製工房として創業された。創業者は女性であり、働く女性たちのためにエプロンをつくっていたところ、創業者の孫である現在のクリエイティブ ディレクター、アルベルト・クリームラーが1980年に入社したことをきっかけに高級クチュールメゾンに成長。

圧倒的に上質な素材を使い、これ見よがしではなく美しく身体を包むディスクリート(控えめな)・ラグジュアリーファッションとして、世界の第一線で活躍する女性たちから支持されている。

その顧客リストにはモナコ公国のシャルレーヌ公妃やUNHCR特使を務めたアンジェリーナ・ジョリー、また多くの女性CEOや政治家、社会活動家などが名を連ねるといえば、その世界観を想像いただけるだろうか。たとえば春夏コレクションの軽いセットアップであっても1着数十万円する高級ブランドである。
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文=秋山 都

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