近年、働き方の多様化が進み、有期契約で働く人材が増えつつあるものの、企業のインクルージョンに対する姿勢は、業界差が大きい。例えば小売業など、契約社員やパート社員が組織で多数を占める業界では、比較的力を入れて取り組んでいるケースが多いものの、それらの雇用形態で働く社員が少ない他の業界では、あまり注力されていない傾向がある。
そこで今回は、契約社員、パート社員のパフォーマンスを高めて会社の業績アップを実現するために、D&I担当者が乗り越えるべき2つの難所と、その克服方法を説明する。
正社員に自然と溶け込む仕組み作り
同一労働、同一賃金が義務化された今、雇用形態の違いによる不合理な待遇差は解消され始めている。しかし正社員と契約社員、パート社員は心の中で互いに「見えない壁」を作ってしまうことが多い。雇用形態を超えて良好な関係を築けなければ、組織でコミュニケーション不全が発生する。そして例えば業務上、必要な情報を持つ人へのアクセスが難しくなり、本来のパフォーマンスを発揮できないなどという事態に陥るリスクがある。壁を取り払うには、企業の風土や社員のマインドを変えるアプローチが必要となる。
例えば「ランダムな座席」は効果的な取り組みの一つだ。毎日座る場所を変えるだけで、雇用形態の異なる人たち同士のコミュニケーションを促せる。フリーアドレスと言いながら、なんとなく固定の席があるという企業も多いが、毎朝くじ引きをしたり、Excelや席替えツールを使ったりすれば、大きな手間をかけずに社員同士の新たな関係性を築くことにつながる。
一方、リモートワークが中心の職場には、Discord(ディスコード)というツールの導入がお勧めだ。ZoomやGoogleMeet、電話の場合には、互いに話す時間をあらかじめ確保しておく必要がある。また、それらで思い立って連絡を取る場合には、相手の様子が見えにくい状態になる。しかし、Discordでは相手に話しかけてOKかどうかを、パッと見てわかるように設定できる。部屋にお邪魔するような感覚なので、「ちょっといいですか?」と気軽に会話ができるのだ。
私は前職でこのツールを使ったときに、相手とリアルな職場ですれ違ったときに会話をするような感覚が再現されていると感じた。従業員からは「リアルよりも話しかけやすい」という声も上がっており、私自身も社内コミュニケーションの活性化を実感していた。