彼は20年前、ニューヨーク州ブルックリンの大型開発をリードし、14万平方メートルという広大は工場エリアを新複合施設として生まれ変わらせた。その実績を買われ、NYCEDCのCEOに抜擢。今度はマンハッタンを中心としたエリアの再開発に挑んでいる。
東京もまた、大規模な開発の只中にある。ターミナル駅を起点とした大型開発、400メートルを超える超高層ビル、地下鉄の新設など2030年から40年にかけてその勢いは止まらない。
キンボールは「東京とニューヨークは似ている」という。しかし、少子高齢化と一極集中が加速する日本で大都市が生まれ変わることは、いくつかの課題を生むことになる。たとえば労働力としての人、その住居はどう考えればいいのか。NYの成功をリードしたキンボールの言葉にヒントがある。
Forbes JAPAN(以下、F):ニューヨークは東京と同様に、港湾都市として発展し、現在、ウォーターフロントを再構築した都市開発を推進していると聞いています。その際、気候変動と環境レジリエンスを重要な課題と捉えて取り組みを推進しているとのことですが、どのようなフレームワークなのでしょうか?
アンドリュー・キンボール(以下、キンボール):ニューヨークでは現在、数百ものプロジェクトが進行しています。中でも今後25年間で、すべての建物の「グリーンビル」への改修が義務付けされたので、建物をレジリエンスと自然エネルギーを中心に設計することが、必要になります。現在、市は洋上風力発電、水力発電、太陽光発電といった自然エネルギーの利用へと移行しており、大型ビルにも自然エネルギーを導入し、2050年までに古い送電網への依存をゼロにする計画を推進しているのです。
F:エネルギーのほかにも、建物のリユースなどにも注力していると聞いています。
キンボール:はい、レジリエンスを取り入れるだけでなく、美しい建築を作ることも優先事項にしています。というのも、若い人たちが働きたいと思うのは、モダンなレジリエンスのあるビルだからです。建物にリサイクル素材が使用されているかどうか、その建物が循環型経済の一端を担っているかに、彼らは非常に関心がある。
私は前職で、古い歴史的な建物をユニークに再生する「アクティブ・リユース」プロジェクトに従事していました。例えば、1800年代に建設された工場用建物のブルックリンの海軍工廠は、40~50年前までほとんど空き家同然でした。それを、デザイン、ファッション、技術、アートといった21世紀のモノづくりを牽引する若い起業家と一緒に、新たなモノづくりのハブとして再生させたのです。
最近発表したばかりなのですが、このハブに集積しているバイオテックのスタートアップの支援目的で、バイオテックの一大拠点となる研究所やインキュベーションセンターを25年に開設する予定です。すでに若い企業が拠点とするこの場所に、大企業や老舗企業が集まっている。また、カルチャーの拠点として周辺からも人が集まる。「仕事」と「ヒト」の好循環が生まれているのです。