最大50万戸の住宅を建設する
F:若い労働力の受け皿となる産業創出する一方で、どのように彼らの居住区を作り、交通網を整備しているのでしょうか。ニューヨークも東京と同様に、賃料は高額で、ラッシュ時は地下鉄も混雑し、交通渋滞も起きていると聞いています。キンボール:今、ニューヨークは、50万戸の新しい住宅を建設することが最重要課題なのです。抑えた賃料価格で若者や中間層でも借りることのできる住宅です。私たちはあまり利用されていない古いオフィスビルを2000万平方フィート(東京ドーム約4個分)取得して、現代的な住居用ビルに転換する計画を進めています。
と同時に、使用されていない駐車場もかなりあるので、そうした空き地を住宅建築に充てる計画も進行しています。市が管理して民間不動産企業に住宅開発を委託するのです。現在、ブロンクスのモリスパーク、ブルックリンの「ブロードウェイジャンクション」などで大規模な住宅開発が進行中です。
その際、住宅の周りに交通機関のハブを作ることも不可欠です。東京は地下鉄駅や地域鉄道周辺に住居を集中させるという素晴らしい取り組みを行っていますが、ニューヨークはその点をもっと見習う必要がありますね。
NIMBYか、YIMBYか
F:大規模な開発を行う際、住民やコミュニティと協働で計画に取り組んでいると聞いています。コミュニティの協力を得るうえでの方針について教えてください。キンボール:重要なのは、地域との協議をしっかり行い、地域主導で推進していくことです。「NIMBY(Not in My Backyard)=私の裏庭はダメ」という、住民が開発に反対する時に使う表現があります。それが最近のニューヨークでは、「YIMBY:Yes in My Backyard=ぜひ、私の裏庭を利用してください」と住民が口にする。地域とのコミュニケーションを重視する取り組みの成果だと思います。
YIMBYと言われるためにも、手ごろな価格の住宅、そして地元や近隣に仕事があることは必要条件です。また、自転車専用道路や公園などの「グリーンウェイ」インフラの整備も重要です。ブロンクスのモリスパーク、ブルックリンのウォーターフロントなどは、空や光、公園、ウォーターフロントを活かした開発のため、若者が居住地として選ぶ。こういう若い活気のあるブルックリンなどに企業が進出しているので、地域に新たな雇用が創出され、街に活気が生まれています。こうした街づくりが最近のニューヨークの潮流になっているのです。
F:ニューヨーク市は、未来の労働人口の課題にも取り組んでいると聞いています。日本も労働人口減少は喫緊の課題です。
キンボール:人口増や将来に対して重要なことは、若い世代が将来の仕事や自分たちの子供たちに未来があると感じられることだと考えています。ニューヨーク市は州と協働で20億ドル規模の官民一体の都市開発構想「SPARC Kips Bay」を約6カ月前に発表しました。
マンハッタンの看護学校の跡地に、看護学校、公衆衛生大学院、2年制のコミュニティカレッジを誘致すると同時に、幼稚園から高校まで教育機関を設立する。また、市の機関やバイオテック企業も隣接させ、バイオテックと公衆衛生の一大ハブを創る計画です。公衆衛生とバイオテックに焦点を当てた職業教育を若い世代に行い、新たな産業を担う将来的な人材を育成するのが目的になります。新たに1万の雇用を創出する計画なので、教育を受けた人材の受け皿にもなります。
また、サイバーセキュリティや人工知能といった急成長する産業でも、同じ取り組みを進める必要があります。若者に早い段階でスキルを習得させて、経験を積むことのできる道筋を作ることが、都市の進化には必要です。おそらく労働人口を増やすという点では、東京もニューヨークと同じようにそうした道筋が必要になるのではないでしょうか。