ジブリを生んだ「メディア・エンタメの怪人」 超豪快な表の顔とウラの顔

Romolo Tavani / Shutterstock.com

著名なハリウッド俳優や欧米のロケが入らなければ、国際配給は難しいことを『敦煌』で認識した徳間は、製作費の調達にも役立つと、エリザベス・テイラーを女帝役にキャスティングすることを思いつく。

マネージメント会社を介して交渉を試みたが、彼女は当時薬物依存症で入院中で、進捗は無かった。そこでまた徳間はスタントに出る。

1980年代後半、ロサンゼルスにはハリウッド関連の芸能情報を提供する日本人記者や情報屋が多く、事前告知をすれば、記者会見を設営することは難しくなかった。彼らにテイラー出演の記事を書かせて大きく報道されれば、仮に出演が叶わなくても、出資企業の財布の紐が緩くなる可能性は高い。

連絡を受けた記者たちが病院で待っていると、徳間は白い巨大なリムジンで乗り付け、大きな花束を携えて悠然と現れた。

「諸君、良く集まってくれた。これから、エリザベスと会って酔夢譚出演を取り付けてくるので、朗報を待って待機しておいてくれ」と言い残して館内に消えて行くと、40分後、満面の笑顔で玄関前に現れた。

「わざわざ東京から来てくれたと感激して、手を握ってくれたよ。もうすぐ退院できるそうだ」と話し、「直ぐに記事を書いて東京に送ってくれ、ご苦労。ギャラは想像に任せる」と言って心付けの入った封筒を配り、リムジンで颯爽と走り去った。

裏取り無しには記事を送らない大手通信社や全国紙の特派員には声を掛けていないので、真偽を確認しようとする記者など居なかった。また当時は、病院の出入りにセキュリティーチェックは無く、病室には入れなくても、VIP病棟のナースステーションまでは結構誰でも入って行けた。玄関前取材なども規制が緩かった。

つまり徳間は花束を看護師に託け、自販機のコーヒーを通訳と飲んで時間を潰し、戻ってきただけだったが、この作戦は見事に成功した。

翌日、ホテルから財界人に「エリザベスの記事を読んだと思いますが大丈夫です。今回は世界配収で利益が出ます。製作協力、よろしく」と直電をかけ、実現に向けて動き出した。
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文=北谷賢司 編集=宇藤智子

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