この作品のヒーロー、ヒロインは、ティーダとユウナなのですが、それ以外の各登場人物たち(全約15人)も、それぞれ深い物語を持っているのが特徴です。作中では「これが俺の物語だ」「これは私の物語だから」といったセリフも出てきて、登場人物たちがいかに前向きに、そして真剣に人生を歩んでいるかが伝わってきます。
今回の新作歌舞伎を観に来てくださるお客さまも、それぞれ自分の物語を持っていると思います。FFXのなかには、自分と似ていたり共感できる部分がある登場人物もきっといるはず。そうした登場人物たちの成長を観ていただくことで、お客さまも前向きな気持ちになっていただけるのではないかと思っています。
──菊之助さんご自身も、共感する場面がありましたか?
ありましたね。特に親子関係についてです。この作品には、ティーダと父、ユウナと父、それから敵のシーモアとシーモアの父といった、三者三様の親子関係が描かれています。
私は、父が師匠という環境にいて、昔は父親と比較されたりすることが重荷でしたが、年を経て、いかにこの家に生まれたことがありがたいことかというのを実感できるようになりました。
ティーダぐらいの歳、つまり10代のときっていうのはとても葛藤があったので、私は主人公に共感しました。ぜひ親子関係にもご注目していただきたいですね。
尾上松也が演じるシーモアと中村獅童が演じるアーロン
歌舞伎ならではのおもろしさとは
──原作の魅力をどう歌舞伎と融合させ、表現したのでしょうか。原作がとても素晴らしいので、物語を尊重しつつ歌舞伎的な見せ場をどうつくっていくか、にこだわりました。前編後編にわたって物語を深く掘り下げて描いていますので、いかに歌舞伎的な手法を用いて効果的に物語を伝えられるかを念頭に置いてつくりました。
歌舞伎は、主人公がたっている場面があったり、逆に出てこない場面があったりします。いろんな登場人物の魅力が出る場面をしつらえているのが、歌舞伎の面白さです。
見せ場のひとつ「異界送り」
FFXは元々60時間ぐらいの物語で、それを前編後編の舞台作品にギュッと凝縮しているので、原作のどのシーンを生かすかもとても悩みました。2020年からずっとこの脚本に携わってきましたが、今でもたまに、ストーリーを振り返るために原作の攻略本を読み返しています。