「進歩史観」の過信

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では、それは、なぜか。

それは、「民主主義」や「資本主義」、「平和主義」や「国際主義」、そして「科学技術」が、いまだ十分に「成熟」を遂げていないからである。

例えば、いま、世界に「専制主義」が広がっているのは、現在の「民主主義」が、「意思決定に手間と時間がかかる」「政策の継続性が失われる」「ポピュリズムが蔓延する」など、まだ多くの問題を抱えているからであり、「民主主義」が、そうした問題を抱えている限り、「専制主義」は、容易に、しばしば、復活してくるだろう。

同様に、現在の「資本主義」が、人類全体を豊かにせず、貧富の差を拡大しているのは、まだ、「資本主義」が、富の最適配分やSDGsなどを包摂したものになっておらず、十分な成熟を遂げていないからである。そのことは、現在、世界中が「新たな資本主義」を模索している姿に象徴される。

そして、こうしたことが起こる背景には、1990年前後に、ソ連や東欧などの「専制主義国家」「社会主義国家」が、次々と崩壊したことによって、「民主主義と資本主義は、歴史的な勝利を収めた!」という過信と慢心が生まれ、「民主主義」や「資本主義」そのものを、さらに改革し、成熟したものへと変えていく努力を怠ったからである。

同様のことは、「平和主義」や「国際主義」にも起こっている。冷戦終結とともに、「これからはパックス・アメリカーナの時代だ!」「これからは、グローバリゼーションの時代だ!」と思い込み、大規模戦争が起こる可能性を過小評価し、極端な他国依存を強めていったことの、「反動」と「揺り戻し」が起こっているのが現実であろう。

そして、「科学技術」もまた、物資的豊かさが人々を幸福にするという思い込みによって、宗教倫理の重要性に目を向けることを怠ってきた。

こうした過信と思い込みの代償を、我々人類は、しばし支払うことになるが、その痛苦な経験の先に、真の希望が生まれてくるのだろう。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。シンクタンク・ソフィアバンク代表。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global AgendaCouncil元メンバー。全国7700名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『死は存在しない』など100冊余。

文=田坂広志

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