2021年度の主なメディアの平均利用時間(平日)はラジオが12.2分にとどまり、インターネット(176.8分)やテレビ(リアルタイム視聴、146分)を大幅に下回る。休日だと、ラジオの聴取時間はわずか7分にすぎない。
特に深刻なのが若年層の接触度合いの低さだ。10代の休日の利用時間は0分、20代でも1.8分だ。筆者の勤務する大学でもラジオ聴取の習慣がある学生は少数派。担当ゼミにはTBSラジオのニュース報道番組「荻上チキ・Session」などを好むヘビーリスナーもいるが、全体から見ればひと握り。YouTube(ユーチューブ)やTikTokに慣れ親しむ学生が大半を占める。
「テレビ・ラジオ兼営局の多くはラジオ部門が赤字で、テレビに支えられている状態」と、ある地方局の幹部は窮状を訴える。
地方局が困難に直面している理由の1つは、若年層の深耕が容易でないことだ。若者が耳を傾ける夜間・深夜の時間帯は、自前のものではなく、お笑い芸人がパーソナリティを務める番組など在京キー局のいわゆるネット受け番組中心の編成となっている。一方、「主戦場」ともいうべき午前中や昼間の自社制作番組を支持しているのは主に中高年のリスナーだ。
つまり、広範にわたって首都圏にリスナーを抱えるキー局とは、取り巻く環境が大きく異なるのだ。若年層向けの番組編成へ全面的に切り替えようとすれば、自らの首を絞めることにもなりかねない。
「若者のラジオ離れ」の指摘は正しくない
とはいえ、活路を見出すヒントが北海道のラジオ単営局の番組にある。AIR-G‘(エフエム北海道)が毎週金曜日の午後6時から4時間にわたって放送する「IMAREAL(イマリアル)」は、あえて中高生や大学生などの若者の取り込みを狙う。メインパーソナリティを務める同社編成制作部の森本優(31歳)が「学生時代にあったらよかったなあと思う番組」を制作しようと企画書を書き上げ、6年前の2017年4月からスタートした。番組の目玉は学校訪問のコーナーだ。森本が、毎週、北海道内の中学校や高校に足を運び、運動部や文化部の部員へのインタビューを交えながら活動内容などを紹介する。石の上にも3年、当初は認知度が低く、学校が取材を受け入れても部の顧問の教諭に断られるなどのケースもあったが、いまでは「番組ファンの先生も増えた」と森本は語る。
同コーナーでの印象的なエピソードがある。60人という大所帯の吹奏楽部の部長を務める高校生は話し方も明るく、部員からの信頼も厚かった。しかし取材後、その高校生から1通の手紙が番組に届いた。部活ではキラキラと輝いていたが、家庭内暴力の被害に遭っていたという。
友達や先生にも言えない悩みを打ち明けてくれた高校生に対し、森本は番組を通じて「あなたはあなたのままでいい」と伝えた。その高校生もいまでは無事に独り立ちしたという。
このようにリスナーを支え続ける姿勢はまさにラジオの真骨頂。中学校や高校へ、直接、出向くことで番組を聴き始める人が増えたと、手応えも感じている。「中高校生向けの番組は他局にも存在するが、学校へ定期的に足を運んでいるケースは少ない」と森本は胸を張る。