北海道の若者向け人気番組「イマリアル」が指し示すラジオの未来

若者に寄り添い続ける「IMAREAL」のパーソナリティ、森本優さん

東京・銀座の博品館劇場で2日から上演が始まった「午前0時のラジオ局」。深夜番組のパーソナリティに抜擢された新米アナウンサーの奮闘や、30年前に不慮の事故で他界し、幽霊となって若いときの姿のまま同番組を担当するディレクターが生前に伝えたかった胸の内などを描いた作品である。

原作は2014年に刊行された『午前0時のラジオ局』(PHP文芸文庫刊)。長崎放送(NBC)の現役アナウンサー村山仁志による書き下ろしの小説だ。村山はテレビだけでなく、ラジオでも活躍。2017年度にはギャラクシー賞のラジオ部門でDJパーソナリティ賞を受賞している。

「ラジオは神秘的」と語る村山は、「電波を通じて目に見えないものを遠くの見ず知らずの人の心に届けてしまう魔法のような存在」とも説明する。

原作小説はラジオ番組を介し、無念の思いを抱きながらこの世を去った人たちが遺したかったメッセージを紹介するという設定。「どんなに辛いことがあっても大丈夫ということを言いたかった」と村山は話す。
 
舞台で語られる役者のセリフも、「心のライフライン」、「落ち込んでいる人を勇気づけてくれる」など、ラジオへの「愛」にあふれている。「僕は生粋のラジオマン。この仕事が死ぬほど、いや、死んでも好き」という幽霊ディレクターのエンディングのひと言が心に突き刺さる。「午前0時のラジオ局」を書き下ろした村山仁志さんはアナウンサーと小説家の2足のワラジを履く

『午前0時のラジオ局』を書き下ろした村山仁志さんはアナウンサーと小説家の2足のワラジを履く

10代の休日ラジオ聴取時間は0分

ラジオはリスナーとの「距離の近さ」が最大のウリだ。深夜放送全盛期の1960~70年代から現在に至るまで、なお、番組がリスナーに寄り添う基本姿勢は変わらない。マイクに向かうパーソナリティは「皆さん」でなく、リスナーに「あなた」と話しかける。

テレビのコンテンツとしてすっかり定着した「ショッピング番組」は、もともとラジオで始まったとされる。パーソナリティとリスナーの距離の近さが決め手になった。「あの人が『美味しい』と言っているのだから大丈夫」、パーソナリティの販売商品に関するコメントが消費者心理を刺激するのだ。

大規模な災害が発生すると、テレビやラジオは特別番組を立ち上げることが多いが、ラジオはテレビよりも早く通常の編成へ戻すケースが少なくない。実はこれもパーソナリティに対するリスナーの信頼の証しだ。馴染みのパーソナリティがいつもの番組内でライフラインに関する情報などを提供。彼らの「声」を聴くことで、被災地で暮らす人たちなどが安堵感を覚えるという。

だが、こうしたラジオの特性や強みもインターネットの利便性には敵わないのだろうか。業界をめぐる収益環境は依然として厳しい。大手広告代理店の電通が2月に発表した「2022年 日本の広告費」によると、同年のラジオ広告費は前年比2.1%増の1129億円と2年連続で増加した。

2020年には1066億円まで落ち込んだが、コロナ禍を追い風に反転。それでも、2010年から1300億円割れが続いており、底ばい状態だ。「回復トレンド入りした」と判断するのは時期尚早だろう。
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文=松崎泰弘

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