アート

2023.03.05

「アイルランドの巨人」の遺言、2世紀越しの実現 博物館が骨格展示中止

1880年ごろのハンター博物館を描いたイラスト(Photo by Rischgitz/Getty Images)

1783年、22歳の若さでこの世を去った「アイルランドの巨人」ことチャールズ・バーン(本名チャールズ・オブライエン)は、その短い生涯の中で、アルコール依存症や下垂体性巨人症といった健康問題に悩まされた。

バーンには脳腫瘍があり、成長ホルモンを調節する下垂体に影響を及ぼしていた。この腫瘍のせいで、成長ホルモンが過剰に分泌され、先端巨大症と呼ばれる状態になり、身長は約2メートル30センチもあった。英国各地で行われる見せ物小屋に出演し、生計を立てていた。

バーンは有名人であり、経験豊富なエンターテイナーであった。しかし、健康問題に悩むようになると、別の意味でビジネスの問い合わせが来るようになった。外科医や医学研究者が、死後の遺体の提供や売却を迫ってきたのだ。当時の医学会では、巨人症や先端巨大症についての理解が浅かった。さらに、「巨人」の骨格を手に入れたいと願うコレクターもいた。

バーンは死の床についた時、自分の遺体は海に葬ってほしいと友人たちに伝えた。自分の遺骨が展示されるのを防ぐ唯一の方法は水葬だと考えたのだ。

しかし、バーンの最後の願いはかなわなかった。遺骨が盗まれてしまったのだ。著名な解剖学者で外科医のジョン・ハンターは、バーンの骨を、動物や人間の標本約1万4千点を集めた自身の膨大なコレクションに加えた。

1799年、ロンドンのイングランド王立外科医師会に、ハンター博物館が設立された。この博物館には、ハンターのコレクションから選りすぐった標本が数多く展示されていた。



バーンの骨格は、200年以上もの間、ハンター博物館で最も人気のある展示物となっていた。しかし同館は1月、バーンの骨格標本の公開展示を中止すると発表した。

バーンの親族で、バーンと同じく巨人症と先端巨大症があるブレンダン・ホランドは、博物館の判断は正しいと考えている。ホランドはアイルランド放送協会(RTE)に「死んだ人のためには何もできないが、今この病気と共に生きている人を助けることはできる……。私が住んでいる東部タイロン州と南部デリー州では、特にこの病気が多い」と語った。

バーンの遺骨は、すぐに海に埋葬されることはないだろう。ハンターコレクション管理委員会は、バーンの骨格は「真っ当な医学研究のために引き続き利用できる」と述べている。

バーンの遺骨に関する今回の発表は、倫理と解剖学的展示物に関して続く議論における重要な節目となる。

forbes.com 原文

翻訳=Akihito Mizukoshi・編集=遠藤宗生

ForbesBrandVoice

人気記事