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2023.01.13

「モナリザ」や「春」など被害相次ぐ 美術品を守る手立ては

Getty Images

今、世界中で、有名な絵画が被害を受けたという報道が相次いでいる。

2022年だけでも、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」にケーキが投げつけられたり、ボッティチェリの「春」が接着剤のついた手で触られたり、いくつもの絵画が狙われた。なかでも強く衝撃を受けたのは、トマトスープをかけられたゴッホ「ひまわり」やモネの「積みわら」にマッシュポテトが投げつけられた襲撃事件ではないだろうか。

絵の価値で言えば、ゴッホの「ひまわり」は推定8420万ドル(約125億3000万円)、モネの「積みわら」は、2019年のオークションで約1億1000万ドル(現在のレートで約163億円)の値がついていたという。

いずれの作品もガラスで保護されていたため、作品自体に大きな被害はなかったが、日本で同じようなことがいつ起きても不思議ではない。そこで、美術品が損害を受けた場合の補償について調べてみた。

美術品の損害を補償する公的制度とは


文化庁のホームページによると、展覧会のために借り受けた美術品が損害を受けたときに備えて、政府による補償として「美術品補償制度」が用意されている(図表1)。




この制度が適用された場合、通常損害の場合なら1000億円まで(うち自己負担50億円)、特定損害(地震等・テロ)の場合には951億円まで(うち自己負担1億円)補償を受けられる。万が一の事故発生時には、この制度による補償金と、美術館が契約した民間美術保険からの保険金で、損害の全てをカバーすることになる。

そう聞くと、積極的に海外から有名な絵画を借りての企画展を開催できる印象を受ける。しかし、この制度の対象となる展示施設・展覧会にはさまざまな要件があり、適用を受けるのはハードルが高いようだ。

というのも、この制度適用にあたっては「展覧会の文化的意義・開催による国民的利益」があり、主催者が「美術品の安全確保」をどこまで行っていたかが、政府によって厳しく審査されるのだ。

加えて、

・対象美術品の約定評価額(補償契約で定める価額)の総額が50億円を超えている
・展示予定の美術品のうち主要なものを海外から借り受ける
・制度活用による国民的利益の増進を図る観点から、(主催者が)展覧会の実施や展示作品の充実させる
・全会場で小中高生の入場料無料化、教育普及活動などの具体的な取り組みを行う

など、主催者はこれらの要件をすべて満たしたしてようやく、制度適用の申請ができる。
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文=竹下さくら 編集=露原直人

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