属名のAusichicrinitesは化石ウミユリの第一人者である米国のウィリアム・オーシッチ教授にちなんでおり、種名のゼレンスキー(zelenskyy)が、「自由なウクライナを守る勇気」を持つゼレンスキー大統領に敬意を表したものだ。ポーランドとウクライナは長い歴史を共有しており、ウクライナ西部の一部はかつて数世紀にわたってポーランドの一部であったことがある。
この化石は、エチオピアのアンタロ石灰岩層で発見された。アフリカ大陸で発見されたジュラ紀のウミユリの仲間(ヒトデ、クモヒトデ、ウニ、ナマコなどを含む無脊椎動物群)としては初めてのもので、保存状態がよく、完全な化石である。Ausichicrinites zelenskyyiは、現存する近縁種のないウミユリ亜科に属している。
ウミシダの化石は、そのほとんどがほぼ解体された形で見つかっている。生きているときの皮膚は、炭酸カルシウムでできた小骨で覆われ、丈夫ながらも柔軟な外殻を形成している。しかし、個体が死んで軟組織が腐敗すると、骨格や腕などの器官がばらばらになりがちだ。このため、ほぼ完全な標本が発見されることは稀なことなのだ。
また、この化石には古傷の跡が残っており、他者からの捕食攻撃から生き延びたものの、10本の腕のうち1本を失っている。現在みられるウミユリの再生能力は目覚ましく、失われた腕を迅速かつ完全に再生させることができることで知られている。Ausichicrinites zelenskyyiには腕が再生した形跡があり、これは化石のウミシダ上で観察された初の再生例だ。
腕の部分が再生したAusichicrinites zelenskyyiの完全標本(画像は論文より)
この論文「Ausichicrinites zelenskyyi gen. et sp. nov., a first nearly complete feather star (Crinoidea) from Upper Jurassic of Africa」はRoyal Society Open Science(2022)に掲載された。