うまく行っていないスタートアップを「諦める」こと

成功するはずがないと直感的にわかっていても、投資家のために最後まで頑張り続ける義務を感じることもあるかもしれません。事業を断念し、残った資金を出資者に返す、もしくは最小限の利益で会社を売却するなどの決断を下したら、投資家からの評価が下がるのではないかと恐れてしまうのです。見損なったと思われ、もう2度と出資してくれないのでないかと心配になるかもしれません。

しかし、こうした懸念とは裏腹に、投資家は実際は違った見方をしていることも多いのです。先がないスタートアップに出資金を使い切られるのは、投資家にとってもデメリットでしかありません。ですが一部でも返ってくれば、状況をよく理解し、たとえ難しい決断でも堅実で正しい道が選べる起業家だと評価されるでしょう。それができるのは、会社の期待値に対する理解力や、環境変化への対応力が高い証拠でもあります。

実際、それらの能力は投資家から高く評価されます。今後も機会があればまた協力したいと印象付けられる可能性も上がるでしょう。Conway氏も、資金を返すことは将来的な出資の可能性をむしろ上げると強調しています。

私自身もConway氏の意見におおむね同意します。アメリカ人的な考えなのかもしれませんが、起業家も社員たちも、先がないとわかっている状況でスタートアップならではの「ハードシングス」を続ける必要は全くないと考えています。それよりも、その時間をもっと実りのある取り組みに使うべきです。

スタートアップの成功にグリットが不可欠なのは疑いようがありません。大変だからとすぐ音を上げてしまうようでは、成功を掴めるはずがないのです。しかし、事業が思っていたようにうまくいかないときには、「知的誠実さ」をもって対処したほうが全員のためになるでしょう。Annie Dukeの本では、その具体的な方法の1つとして「打ち切り基準」を決めておくことを勧めています。

例えば、プロジェクトを打ち切ったり、これまでの考えを変えたり、不採算事業に見切りつけるための判断基準のことです。認知バイアスを排除して合理的にその都度判断できるように、自分のビジネスならどのような基準やタイムスパンで考えるべきか決めておくと良いでしょう。

自らの状況と重ねながら、この記事を読んでいる起業家もいらっしゃるかもしれません。そんな方にCoralが伝えたいのは、事業が期待通りに進まない場合があることを私たちはよく理解しているということです。そもそもVCというビジネスは、将来的に並外れたリターンを生み出す一握りのスタートアップを見つけるために、リスクが高いことを承知で投資しているのです。

残念ながら突き抜けた結果は望めないとわかったスタートアップとは、その考えを率直に共有するようにしています。そして、結果的に売却や解散が終着点であったとしても、全員にとって最善となる結論を一緒に探します。

売却した場合、Coralが期待していたような巨大なリターンは得られないかもしれません。しかし、起業家や社員たちの何年にもわたる努力に対し、ある程度の見返りとなる報酬を用意することができます。

また、少なくともイグジットまでやり切ったという実績や、それぞれが新しい道に挑戦できるようになるなどの良い面もあります。M&Aが現実的な選択肢ではない場合、Coralの投資先企業の中から起業家や社員たちの新たなキャリアパスを探すこともできます。必ずなにか良い道が見つかるはずです。そして人生の時間や労力を、より有意義な目標のために使えるようになるでしょう。

連載:VCのインサイト
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文=James Riney

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