うまく行っていないスタートアップを「諦める」こと

誰もが人生の時間は限られていて、その中でやり遂げられることも数えるほどしかありません。企業を立ち上げ、運営し、成長させるために起業家は非常に多くの労力を注ぎ込み、わずかな報酬で長時間労働を続けるなど過酷な日々も経験します。それは成功しているスタートアップであっても例外ではありません。そして浮き沈みの激しい不安定なスタートアップで奮闘するその1日1日が、自身の機会費用の損失になっているのも事実です。

実際、起業家のほとんどは極めて優秀かつ意欲的な人材であるため、もっと少ない労働時間で今より多い報酬をオファーする企業はいくらでもあるでしょう。もちろん、自らの力で世界を変えたり、成功すれば大きな経済的リターンが期待できるというやりがいがあれば、どんな苦労も惜しくないかもしれません。しかし、失敗に終わる可能性が高いとある程度目処がついた段階で、新たな道に進む決心をするのも、けして恥ずべきことではありません。

とはいえ、口で言うのは簡単でも、実際に決断を下すのは難しいことでしょう。「やめる決断」の前にはいくつもの心理的な障壁が立ちはだかります。スタートアップを自身のアイデンティティーそのもののように感じている起業家もいるでしょう。何年も取り組み続け、時間もお金も注ぎ込んで育ててきた大切な会社なのです。

周りからの評価も気になるでしょう。やめたら社員たちはどう思うか、 出資してくれた投資家はどう思うかなど様々な懸念が躊躇させるかもしれません。

または、社員に対する責任感から「やめるなんて考えられない」と思われるかもしれません。会社をたためば、これまで会社のために私生活を犠牲にしながら時間や労力を費やし、ともに戦ってきたチームメンバーたちが職を失うことになります。

しかしConway氏が指摘するように、人生は短いのです。それは社員たちも同じです。スタートアップに入る社員は大抵の場合、給料が低い代わりに将来的に桁違いの価値に上昇するかもしれない自社株が与えられます。

世界にインパクトを与えるというやりがいや、成功すれば大きなリターンが得られるという期待があるからこそ、社員たちはこのトレードオフを受け入れているのです。

先がないスタートアップで働き続けることは、その優秀な社員たちにとっても機会損失でしかありません。Conway氏が「スタートアップに縛られる起業家」を見たくないように、起業家も「スタートアップに縛られる社員」を見たくないと思っていいのです。
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文=James Riney

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