ESAは、今後10年間に数十件の月ミッションが計画される中、共同作業を容易にし、正確なコミュニケーションとナビゲーションを行うためには同一のタイムゾーンが必要だと説明している。
月には独立したタイムゾーンがなく、月探査ミッションはそれぞれ、地球の時間を使用して地上チームとの連携を取っている。これは探査機同士が互いに同期していないことを意味しており、この方法はミッションが少数であれば通用するが、今後予想される月探査活動の急増を踏まえると「持続可能ではない」とESAは指摘している。
ESAのナビゲーションエンジニア、ピエトロ・ジョルダノは、すべての月関連システムと月探査ミッションが参照可能な共通月時間を決めることは「重要かつ緊急な課題」だと説明。そのための「共同の国際的取り組み」が現在立ち上げられていると述べている。
月の標準時がどのような形態を取るのかははっきりしない。ESAは、システムを決定する前に多くの課題を解決する必要があると述べている。そうした課題には、単一の組織が月時間の管理を担うべきかどうか、月時間は独自に設定されるべきか、それとも地球と同期すべきかなどがある。将来的には、地球と同じように、太陽の位置に基づいた複数のタイムゾーンを作るべきかもしれない。
月面では、時計や時間そのものが地球上よりも速く進む。ただし、1秒の定義はどこでも共通だ。一見矛盾するように思えるこの現象は、重力によって時間が歪むことを説明したアインシュタインの一般相対性理論で予想されていた。地球は月よりも質量が大きいため、重力場が強く、時間が遅く進む。
ESAは、月の時計は24時間当たり約56マイクロ秒(1マイクロ秒は1秒の100万分の1)速く進むと推定している。時差は時計をどこに置くかによって異なり、例えば月周回軌道上では時間が月面よりも遅く進む。こうした時差はごく僅かに思えるが、月探査ミッションを進める上では問題となる。作業の安全性と効率性を確保する上で、時間の精度は重要であり、僅かな差が時間と共に蓄積されていく。
ESAは昨年11月、専門家を集めてこの問題について議論したという。同様の議論は米航空宇宙局(NASA)でも進められている。同局は、月面基地の建設と火星有人探査を目指すアルテミス計画の一環として、月におけるコミュニケーションとナビゲーションを標準化するLunaNetイニシアチブを立ち上げた。
(forbes.com 原文)