月の裏側は天文学にとって最後のフロンティア、ビッグバン宇宙論者語る

米国の地質学者・宇宙飛行士のハリソン・シュミットが20世紀最後の月面着陸ミッション、1972年12月のアポロ17号計画の際に月面から岩石標本を採取した(NASA)

少なくとも20年前、私はNASAの最先端光学エンジニアが、月の裏側から宇宙最遠の物体を観測する計画について話したのを聞いている。そのため月を拠点にして観測を行うという最近の話題に対して、私が少々懐疑的であることをお許しいただきたい。

それは新しいアイデアではない。しかしそれでも私は、著名な宇宙物理学者のジョセフ・シルクが、月を観測天文学の新たな拠点とするよう願った本を書いたことに勇気づけられている。

Princeton University Pressから発刊されたばかりの著書『Back to the Moon: The Next Giant Leap for Humankind』の中で、2019年グルーバー賞宇宙理論部門の受賞者は、その前半を月探査計画のおさらいにあてた。天文学や宇宙に詳しくない人たちにとってはありがたいだろう。しかし、主要メディアの科学欄を日々読んでいる人たちにとっては少々退屈かもしれない。

しかし、パリ天体物理学研究所(IAP)教授であるシルクは、次の一節で核心に触れた。「天文学最後のフロンティアは、宇宙の最初の光が微かに光る暗黒時代を探ることだ。原始の水素の雲は未来の構成要素であるとともに過去の目撃者でもある」

シルクは、月の低重力は巨大な望遠鏡構造物の建築を可能にし、地球や宇宙を拠点とするものより高性能になるはずだと指摘する。

それは真実かもしれないが、それを可能にするために必要なハードウェアを月面で実装するためには、現在の月利用の大転換が必要だ。

私が2003年にDiscoverに書いているが、NASAは月での(有人)観測に関する話で40年近く科学者たちを誘惑している。中には設置するために片道旅行をするつもりの人までいる。現在は、その種の月面観測所はロボット、あるいは人間宇宙飛行士とロボット探査車の協力によって組み立てられるだろう。

先週のアルテミス1計画の成功によって、月面観測推進者たちは新たな希望を持った。

現在、商業的環境は月での科学研究に対して大きく支援の手を広げているとシルクは書いている。望遠鏡製作を推進する説得力ある事例を作ることができる。それは比較的安価で、有人探査の新たな展望を開くだろうとシルクは指摘する。

月面での天文観測に関するシルクの主張で特に強力なのが、月の裏側のクレーターから巨大な低周波電波干渉計(電波望遠鏡の一種)で観測することだ。そこには地球に関わる電波干渉も地球の電離層もない。そのような低周波電波望遠鏡が「暗黒時代」をターゲットにするのだと彼は書いている。そこは初期宇宙のおぼろげな影であり、光も星もないが、膨大な数の冷たいガス雲が遍在している。

幅100キロメートルの地帯に設置した何百万個ものシンプルな無線アンテナを使って、宇宙マイクロ波背景放射の背景に対して遠方の水素雲をマッピングして、シルクがいう分布の微細な歪みを見つけようという考えだ。

「宇宙の始まりから1秒の、1兆分の1の、1兆分の1の、1兆分の1後に、どうやってインフレーション(急膨張)が進行したかを知るためには、あの微弱な信号を研究する必要がある」とシルクはいう。「これらのデータを捕獲する電波アレイは、月の裏側に広がった幅100キロメートルかそれ以上の地域に展開された何百万もの単純な無線アンテナを使用する」
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翻訳=高橋信夫

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