もう1つの選択肢は、月の裏側にある大きな火口原に、ワイヤーメッシュで覆われた巨大電波望遠鏡を作ることだとシルクは書いている。同氏によると、それでも天文学者は、暗黒時代からの電波検出に最適化されたわずか数十メートルの波長で宇宙を探査することが可能だという。
高解像度赤外線天文学については、シルクによると、フランスの著名な天文学者アントニー・ラベイリが、完全に永遠の暗黒で、異常に冷たい、極地のクレーターを「直径5メートルの赤外線ミラーで一杯にして、パラボラ型ボウルを構築する」案をすでに提唱している。そのアイデアは、対象とする標的から届く赤外線信号を集めて単一画像を生成するものだという。
その開口部10キロメートルの月面「hyperscope(超望遠鏡)」は、太陽系外の幅1000キロメートルの海や大陸を撮像することができるとシルクは指摘する。彼は著書の中で、数百万個あるかもしれない居住可能な系外惑星の解明に必要な高解像度赤外線画像を提供できるのは、月面上のmegatelescope(超大型望遠鏡)だけであるとも主張している。
「一握りの惑星を調べるのでは、標本が少なすぎる。月面望遠鏡で新たな地平を開く」とシルクは書いた。「300メートル望遠鏡の目標体積は数十億立方光年だ。これは100万個の居住可能惑星ターゲットにアクセスできることを意味している」
実際のところシルクは、あらゆる科学のプラットフォームとして月が人類にとって重要である理由を見事にまとめ上げている。しかし、著書『Back to the Moon』の核心は、人類が月の天文学的可能性を実現することへのシルクの明快な呼びかけにある。
地球上の何百万人もが空を見上げて「これはいったいどうなっているのか」と不思議に思わないときはない。私たちの多くの文化にとっての最古の哲学的質問に対する一時的な答えのいくつかは手の届くところまできている。たとえば、宇宙が生まれて成長する様子の詳細、私たちの太陽系の誕生と最期、そして私たちの地球と生命そのものは稀な存在なのかそれとも遍在するのかなどだ。
天文学と惑星科学のプラットフォームとして、月は準備を整えて待ち構えている。しかし人類は、月が提供するあらゆる機会を浪費し続けている。その時宜を得た著書によってシルクは、科学のために何としても月へ戻ることの強力かつ重要な事例を提示している。
しかしアポロ最後の月面歩行者がタウルス・リットロウ渓谷を離れて以来、私たちはまだ戻ることができていない。未来の月面探査のためのよく練られた計画であるにも関わらず、シルクが『Back to the Moon』であまりに巧妙に描写した月の裏側の天文学のワンダーランドをいつか人類が作り上げることに対して、私は未だに懐疑的である。
(forbes.com 原文)