世襲の社会身分制度であるカーストは南アジアとヒンドゥー教に根ざし、アフリカや中東、太平洋地域のコミュニティーにも影響が残っている。インドは何十年も前にカースト制度に基づく差別を法的に禁じたが、最底辺に置かれる「ダリット」に対する暴力はいまだにまん延しているのが実情だ。
米国で増えている南アジア系移民の間でもカースト差別はあるようだ。ダリットの権利擁護団体「平等ラボ(Equality Labs)」の調査によれば、米国内に住むダリットの67%が職場で不当な扱いを受けた経験があると回答している。
こうしたなか、シアトル市議会は21日、差別禁止条例の対象に従来の人種や宗教に加え、新たにカーストを含める改正案を賛成6反対1の賛成多数で承認した。平等ラボをはじめ、地元や全米の団体による長年の訴えが実ったかたちだ。
改正案を提出したインド系のクシャナ・サワント市議会議員は「わたしたちの運動は、全米初となる歴史的なカースト差別禁止をシアトルで勝ち取った。この勝利を全米に広げていくために運動を盛り上げていく必要がある」とツイッターに書き込んだ。
米テック企業でもダリット差別か
シアトルのあるワシントン州には南アジア系住民が15万人以上いて、多くはシアトル都市圏に住んでいるとされる。シアトルやシリコンバレーの南アジア系住民の一部は、テック業界でもカースト差別があると訴えている。2020年には、グーグルやアップルなどシリコンバレーのテック企業で働くダリットの女性30人が、職場でカースト差別があるのに、社内規定でカースト差別禁止が明示されていないために訴え出ることができないと告発した。米国では、カースト差別の禁止を求める取り組みが活発になってきている。大学では2019年のブランダイス大学(マサチューセッツ州)を皮切りに、カリフォルニア州立大学、ブラウン大学(ロードアイランド州)、カリフォルニア大学デービス校などが学内でのカースト差別を禁じている。
カリフォルニア州民主党も2021年に行動規範でカーストを差別禁止の対象に入れたほか、グーグルの親会社アルファベットの労働組合も昨年、会社側に対してカースト差別を明確に禁じるよう求めている。
一方、カースト差別を法的に禁止する動きに対しては、ヒンドゥー教徒が不当な法的監視下に置かれることにつながりかねないとして反対してきた南アジア系移民団体もある。ヒンドゥー・アメリカン財団はカースト差別を強く非難しつつ、シアトル市議会の決定は「インド系や南アジア系のすべての住民に対する偏見を制度化するものだ」と批判した。
(forbes.com 原文)