インドで話題を呼んだ5億年前の化石は蜂の巣の残骸だった

ディッキンソニアの化石と思われたもの(左)は、数年のうちに壁から剥がれ落ちた(右)。それはずっと近代のものであることを示す証拠だった(MEERT ET AL. 2023/GONDWANA RESEARCH)

2020年、パンデミックによる最初の都市封鎖の中、インドで予定されていたある科学会議は開催されなかった。

しかし、すでに開催地に来ていたある地質学者のグループは、時間を有効に使うためにインド・ボパール近くにある古代の壁画が残されている洞窟群、ビームベートカーの岩陰遺跡の探索を行うことにした。そこで、5億年前の浅い海に生息し、多細胞生物の最初の進化実験(失敗)ともいわれる謎の生物「エディアカラ動物群」である一種「ディキンソニア」の化石を発見した。インドでこのような化石が発見されたのは初めてのこととなる。


ディッキンソニアの再現想像図(Getty Images)

その発見は大きな話題となった。オーストラリアのエディアカラ高原で初めて発見されたエディアカラ生物群の範囲を大きく広げただけでなく、インド亜大陸最古の岩石を年代測定するためにも役立った。発見はニューヨーク・タイムズ、ウェザー・チャンネル、学術誌Natureのほか、多くのインド国内紙に注目された。

しかし、その化石が「間違っている」ことが判明した。

2022年にフロリダ大学の研究チームが現地を訪れ、問題の物体が著しく腐敗していることに気づいた。それは化石としては極めて異例なことだった。さらに、遺跡には巨大な蜂の巣があり、2020年の研究チームが発見した跡は、これらの巨大な蜂の巣の残骸に酷似していた。


インド、ボパール付近の洞窟群には古代の洞窟壁画がある。化石がないことが年代測定が困難にしている(MEERT ET AL. 2023/GONWANA RESEARCH)

「見た瞬間に、何かがおかしいと思いました」とフロリダ大学地質学教授で、現地の地質の専門家であるジョセフ・マートはいう。「その化石は岩から剥がれ落ちたのです」

化石と思われていたものは、洞窟の壁に沿ってほぼ垂直に伸びていたが、それはあり得ないことだった。この地域の化石は洞窟の床か天井でのみ見つかるはずだとマートはいう。

マートは調査にあたって、大学院生のサムエル・カフォとアナニャ・シンガ、ラージャスターン大学のマノジュ・パンディット教授の協力を得た。彼らはその標本が急速に風化したことを確認し、近くの蜂の巣からできた似たような残骸を写真に撮った。研究チームは自分たちの発見を学術誌Gondwana Researchで発表した。以前、ディッキンソニア化石発見の論文が掲載されたのと同じ雑誌だ。

蜂が巣を捨てたあと、泥でできた蜂の巣は急速に風化してディッキンソニアなどの原始的動物の化石に似てくる。


現地に作られた巨大な蜂の巣(MEERT ET AL. 2023/GONWANA RESEARCH)

原論文の主著者であるオレゴン大学のグレゴリー・リタラック名誉教授は、同氏が共著者らとともに、標本がただの蜂の巣だったというマートの発見に同意すると語った。

この種の自己補修機構は科学的手法の根本的原理だ。しかし現実には、間違いを認めることは科学者にとって困難な行動であり、多くは起こらない。

「新たな証拠が発見されたときに誤りを認めることは、稀ではあるが科学者にとって本質的な行動です」とリタラックがメールで述べた。

多くの古代化石が専門家さえも混乱させている。いかなる生命体にも似ていないからだ。無機的プロセスが巧妙に化石を模倣することもある。

鉱物が凝縮してできるコンクリーションと呼ばれる物体は卵や骨の化石と間違えられることが多く、岩石の中で成長する結晶の中には、カイメンやコケ植物に驚くほど似ているものがある。

資料はフロリダ大学から提供された

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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