二宮尊徳が説いた「サステナビリティ」──経済なき道徳は寝言

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サステナビリティ(持続可能性)とナラティブは、とても相性が良い。自社ならではのやり方で社会を良くするパーパスをナラティブで語り、ステークホルダーを惹きつけ、世の中を変えていく。優れたナラティブは、持続可能な経営を加速する良質な燃料になります。

ですが、ナラティブは、少々効き目が強すぎるので、注意してほしいのです。

「経済なき道徳は寝言である」

なぜかといえば、企業のサステナビリティに関する活動は、社会の持続可能性と事業の持続可能性の、両方を満たすものであるべきであるからです。ESG投資家はそう考えています。もっと有り体にいうと「良いことだからといって、事業と関係ないことは、やってほしくない」ということです。しかし、耳に心地よいナラティブは、しばしば社会の持続可能性に偏ってしまうことがあるから、気を付ける必要があります。

二宮尊徳(金次郎)のことばに、こんなものがあります。

「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」

「道徳なき経済」は、わかりやすいですね。事業倫理を軽視した挙句に法を破り、罪を犯してしまう企業のことです。

もうひとつの「経済なき道徳」を考えてみましょう。たとえば苦しむ人を救う、社会貢献の事業を立ち上げる場合。苦しんでいる人向けだからといって採算を度外視してしまうと、いずれ必要な資金が不足して事業活動が細ってしまいます。長い目で採算が取れ、稼げる仕組みにしなければ、出資も融資も受けることが難しくなります。運良く資金調達できても、一時的な解決にしかならず、小さくまとまってしまうでしょう。こうなるとせっかくの理念も「寝言」になってしまいます。

「儲けやがって」という反発を抑えたナラティブ

解決方法の一つは、事業の途中からでもよいので、稼ぐ仕組みを作ることです。連載第1回で紹介した楽天の創業期のナラティブは、地方の出店者(例では養鶏家でした)が全国に販路を広げ、成長するものでした。ところが楽天が創業時に設定した月額固定制は、規模が大きくなるにつれサーバーの負荷が高まり度々落ちる事態となり、それを解消する目的などから創業5年目に従量課金制を導入しました。

大幅な値上げとなるケースもあったことから、「儲けやがって」と反発する出店者が続出しました。中小の出店者を元気づける「エンパワーメント」のナラティブを小さく捉えれば、疑問に思う人が出てきたでしょう。

このとき、創業メンバーの小林正忠さんが出店者に対し話したのは、儲けなければいけない理由でした。
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