アップサイクルの経済循環を世界に
調べれば調べるほど、善玉活性水のすごさがわかるエビデンスは蓄積されていった。
「牛の尿にロマンを感じる」と言って入社した研究員が核になり、知財や特許も取りにいった。誠は次第に「環境に負荷をかけないアップサイクルの取り組み自体が素晴らしい」と考えるようになっていた。
公害の原因で、コストでしかなかった牛の尿を買い取るため、地域の酪農家から喜ばれた。
当初の仕入れ値はすずめの涙ほどだったが、商品が売れて取引量が増えたことで、「後継者の息子たちに給料が払うことができる」「牛の尿を売ったお金で新しい機械を買った」と感謝された。
また、一次処理された原料は地元の運送業者がタンクローリーで運ぶため新たな雇用も生んだ。商品パッケージのラベル貼りは、地元の社会福祉法人に発注している。地元の人たちを巻き込むことで、地域にアップサイクルの経済循環システムが形成されている。
「子ども時代は両親の実家も牛を飼っていて、『牛舎は臭くて暗い。牛はデカくて怖い』という負のイメージを持っていました。それがいまは製品づくりに必要な原料を生み出してくれる大切な存在です。だから私の会社では『牛』ではなく『牛さん』と呼んで感謝しています」
同社の売り上げは、共同研究とリブランディングを始めた18年1月期から23年6月期までの通年換算で、70%伸びている。現在は国内だけでなく、韓国やカンボジアにも商品を輸出している。
「世界には約10億頭の乳牛、肉牛がいます。うちの技術は、これまで有効活用されていなかった牛の尿をおカネに変えます。善玉活性水を使えば使うほど、地球の健康に貢献します。これからも多くの人に『ともに地球を救いませんか』と訴えたい。いずれはアップサイクル型循環システムを海外にも展開できるように技術を高めたいですね」
決して荒唐無稽な夢物語には聞こえなかった。
窪之内 誠◎1976年、北海道北見市生まれ。大学卒業後、OA機器販売会社に18年勤務。2016年環境大善に入社し、19年代表取締役社長に就任した。「土、水、空気研究所」の所長も務める。
環境大善◎2006年創業。窪之内の父が勤めていたホームセンターの事業を譲り受けて独立。窪之内が後を継いでからは、リブランディングや共同研究に注力。2020年には「土、水、空気研究所」を立ち上げた。従業員数は21人。
『Forbes JAPAN 2023年4月号』では、規模は小さいけれど偉大な企業「スモール・ジャイアンツ」を大特集。受賞7社のインタビュー記事やスノーピーク代表の山井太、経営学者入山章栄ら、有識者によるオピニオンも掲載。世界で勝負する彼らは、どのようにその「強み」を差別化し、武器にして成長してきたのか。独自の方法で可能性を切り拓いた試行錯誤の道のりには、多くのビジネスのヒントが詰まっている。