視察の目的は「継承者がいなければ事業を買いたい」という提案だった。覚は当時70歳になろうとしていたが、その申し出を「売るつもりはない。自分でやる」と丁寧に断った。
この時、視察に来た社長の次の一言が誠の心を大きく揺さぶった。
「家族は距離が近すぎて信用できない気持ちもわかるけど、この液体は本当にすごい。世の中を変える液体だと思う。どうして臭いが消えるのか、いろいろ調べてみるといいよ」
目の前でそう話す社長を、誠はメディアを通じて知っていた。誠自身、同社が提供するサービスのユーザーでもあり、『すごい人だ』と尊敬していた。
「社長がそこまで言うのなら、環境ビジネスとして伸びるだろうという確信がもてました。地域の酪農や農業という一次産業のつなぎ役としても非常にポテンシャルがあると思えるようになった。これは父の代でつぶせないと、事業継承を決意しました」
2015年4月。39歳の誠はOA機器販売会社に所属しながら環境大善の社外取締役となった。16年3月にはOA機器販売会社を円満退社し、同年12月には代表取締役専務に就任。誠はここから「不思議な液体」を北見工業大学などとの共同研究で本格的に調べ始めた。
18年に社長に就任したあとには、単年度で行われていた共同研究が5年間の共同講座に発展。新たに「土、水、空気研究所」という研究機関も立ち上げた。時期を同じくして、「善玉活性水」のブランディングにも取り組み始めた。
「すごい液体なのに、エビデンスや消費者とのコミュニケーションが不足していたため、『おもしろ商品』の枠を飛び越えられなかったんです。商品はよく売れた一方で、『この先、どうやって売ろう』と行き詰まっていた。そこでアートディレクターと一緒に3年かけてブランディングに取り組んだんです」