経済

2023.02.21 09:30

次期日銀総裁・植田和男氏が挑む「経済界で最悪の仕事」

繰り返すが、このとき決められたのはごく細かな変更にすぎなかった。もし植田氏が本格的な金融引き締めをやろうとすれば、政府側がどんなに慌てふためくかは想像に難くない。しかも、日本経済はほとんど成長しておらず(昨年10〜12月のGDP成長率は年率換算で0.6%だった)、賃金の伸びも停滞している。重ね重ね、植田氏の試みにはうまくいってほしいと願いたい。

もちろん、出口がないわけではない。日本が現在見舞われている物価上昇は、黒田総裁の政策よりもサプライチェーンの混乱、それにロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻によるところが大きい。日銀はこの点も踏まえて慎重に戦略を練る必要がある。そのうえで、政府側と新たな方法で連携していくことも求められる。

過去25年間、日銀と日本政府の「連携」は金融緩和と財政出動の組み合わせを意味してきた。いま必要なのは、国会議員たちがやるべきことをやって日本の競争力を高めることだ。植田氏は政府が日銀のATMを利用するには、労働市場の規制緩和、お役所仕事の削減、イノベーションの奨励、スタートアップへの支援、女性のエンパワーメントといった措置を講じることを条件にすべきだ。

2013年に黒田総裁を起用した故安倍晋三元首相がこうした改革のどれかでも実行していれば、日本はいまごろ量的緩和依存を脱せていたかもしれない。実情はというと、日本の「フリーマネー漬け」はますます深まっている。

日銀があまりにも長く避け続けてきたリスクを、植田氏は引き受けることになる。彼が最初にどの積み木を引き抜くつもりなのか、それは本人以外誰にもわからない。マーケットは、どうかタワーが崩れないでほしいと願うばかりだ。

forbes.com 原文

編集=江戸伸禎

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