経済

2023.02.21 09:30

次期日銀総裁・植田和男氏が挑む「経済界で最悪の仕事」

日本銀行の本店(Photo by David Mareuil/Anadolu Agency/Getty Images)

1999年に日銀が主要中央銀行として初めてゼロ政策金利を導入してから、日本は世界最大の債権国であり続けている。また、2001年に日銀が世界に先駆けて量的緩和を初めて以降、円は世界の金融にとってATMの役割を果たしてきた。
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東京で安く借りた資金を、ニューヨークやロンドン、サンパウロ、ヨハネスブルグ、ムンバイ、バンコク、バンコクなどの利回りの高い資産に投じる。こうした取引が世界的な投機の妙味となってきた。円相場が急変するとともすればヘッジファンドが1つか2つ吹き飛ぶのはそのためだ。

このATMのスイッチを切ると、世界のマーケットを動揺させかねない。したがって、その利用時間や引き出し額を制限するというのが植田氏の戦略になるのだろう。もし彼にそうするだけの勇気があればの話だが。

植田氏はさらに、1億2600万人の日本国民とも向かい合う必要がある。日本株式会社はフリーマネー(低金利で借りられるお金)に慣れきっている。植田氏が「パンチボウルを片づけ」れば(編集部注:ウィリアム・マーチン元米連邦準備制度理事会[FRB]議長は、宴もたけなわなときに、お酒の入ったパンチボウルを片づけるのが中央銀行の仕事だと述べた)、日本の銀行や企業、年金基金などのファンドそして先進国で最悪水準の債務を抱える政府は苦しい状態に追い込まれるだろう。
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1970年代から80年代にFRB議長を務めたポール・ボルカーは、利上げを断行したことで文字どおりの殺害脅迫まで受けた。20年にわたって日銀が経済にお金をじゃぶじゃぶ提供してきた状況を植田氏が打ち止めにしようとすれば、どんな反発が待ち構えているか想像してみるといい。

つまり、植田氏が日本株式会社を清らかでしらふの状態にするためには、不屈の姿勢をとり、テレビやソーシャルメディアのフィードはオフにし、国内外からのプレッシャーに耐え抜いていかなくてはならない。彼にその覚悟があるだろうか。それは本人にしかわからない。

一方、日銀が「独立性」を盾に行き過ぎた行動に出ようものなら反撃を加えようと、政府側が手ぐすねを引いていることも忘れないようにしよう。

まず、岸田の支持率が低迷しているという事情がある。一部の調査では、一般に政権が下り坂にあることを示す20%台半ばを記録している。岸田が、日銀による金利正常化によって自身の経済実績がさらに損なわれるのではないかと心配しているのは間違いない。

さらに、日銀当局が政策金利などについて決める会合には、大きな力をもつ財務省からの出席者もいるという事実もある。FRBでは考えられないことだ。

チーム黒田がイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)政策の微修正について話し合った昨年12月20日の会合もそうだった。この会合では、政府からの複数の出席者が本省庁側と相談したいと申し出て、それが認められて約30分中断されていた。
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編集=江戸伸禎

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