ニューヨーク市内にある商店などは、リモートワークの普及によって顧客を失い、売上が減少している。ブルームバーグによると、マンハッタンに出勤してくる従業員が落とすお金は、新型コロナウイルス流行前と比べて年間124億ドル(約1兆6600億円)も減っていることが、スタンフォード大学の経済学者ニコラス・ブルーム率いるワーク・フロム・ホーム(WFH)研究チームの調査結果から示されているという。
コロナ禍が始まって3年が経った現在も、リモートで働くべきか、オフィスで働くべきかという議論は終わっていない。在宅勤務者からは、家で働いたほうが生産性も向上するし、ワークライフバランスもうまくとれるという声が上がっている。それに対して、保守的なベビーブーマー世代の経営幹部は意見が違う。ゴールドマン・サックスのデイビッド・ソロモン最高経営責任者(CEO)や、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOなどは、リモートワークを渋々容認しつつも、従業員がオフィスで働くことを強く希望している。ソロモンは2021年、「リモートワークは一時的な措置であり、出来る限り速やかに元に戻すつもりだ」と述べていた。
崩壊するビジネスのエコシステム
リモートワークなら、ワークライフバランスを良好に保つことが可能で、家族と過ごす時間を増やしたり、子どもの学芸会やバレエの発表会、スポーツの試合を見に行ったりできる。その反面、マンハッタンなどの大都市にとっては痛手だ。リモートワークがこのまま定着すれば、バーやクラブ、ジム、ネイルサロン、美容院、小売店、ブロードウェイの劇場、スポーツ施設やコンサート会場などは売り上げが減ってしまうだろう。計100万人以上のニューヨーカーを雇用する大企業とビジネスリーダーで構成される非営利団体「パートナーシップ・フォー・ニューヨーク・シティ」が1月に実施した調査によれば、マンハッタンのオフィスに週5日出勤している人は10%に満たない。週1日のみ出勤している人は52%で、昨年9月時点の49%より増加した。
一方で、まったく出勤せず完全なリモートワークだという人の割合は、昨年9月は16%だったが、今年1月には10%まで減少した。オフィスに戻って働く人の割合は、最終的に56%で安定するというのが、同団体の予想だ。
従業員がニューヨークに出勤すると、オフィス近辺で朝食を取ったり、ランチを注文したり、クライアントを夕食や観劇に連れて行ったりすることでお金を落としている。しかし、冒頭で紹介したスタンフォード大の調査結果によると、ニューヨークで働く人がオフィス近辺で使う金額は、1人あたり年間で5000ドル(約67万円)近く減った。この減少額は、米国の他の大都市を抑えて最大だ。