欧州

2023.02.10

ロシア軍死傷者は「最大27万人」 安上がりな人海戦術の代償

Getty Images

ワグネルは、バフムートでの戦いで訓練も装備も十分な大隊の大部分がウクライナ軍に壊滅させられた後、やや変則的な新しい部隊構造を採用した。訓練を受けていない元囚人4万人を統制の緩い軽装備の大隊に編成し、経験豊富な少数の中核部隊の指揮下に置くというものだ。

これらの大隊は、戦場での優位性を確保する作戦行動(資金も時間もかけた訓練と、前線兵士の規律の高さ、指揮官の創造性が求められる)はせず、直接ウクライナ軍の陣地に突撃する傾向がある。いわゆる「人海戦術」だ。時間や資源に余裕のない軍隊がとる、手っ取り早くて安上がりな一時しのぎの戦法である。

ウクライナ軍は前線の大半で塹壕(ざんごう)を掘り、大砲の支援を受けているため、この戦法は自殺行為でもある。ロシアのニュースサイト「メドゥーザ」によると、ワグネルは9カ月間にわたり失敗続きのバフムート攻略戦で戦力の80%を失ったという。

ワグネルの戦いに志願することは事実上の死刑宣告であり、ロシアの囚人たちもそれを知っているようだ。米シンクタンク戦争研究所(ISW)によれば、「これまでに動員された元囚人の死傷者が多いため、ロシアの通常部隊と非正規部隊は、矯正収容所からの新兵徴募に苦慮しつつあるもようだ」という。ISWは、死傷者数の多さがロシア軍の戦闘能力を阻害し続けており、当局が今後の攻撃に備えて第2次動員に動くきっかけとなりそうだと指摘している

しかし、動員可能な人の数は減っている。ロシア軍の人員100万人のうち、約半数は長期の契約軍人で、残りは18~27歳の徴兵軍人だ。徴兵制の兵役は1年間で、規定上は戦闘に参加しないことになっている。徴兵対象年齢のロシア人青年約100万人のうち、およそ3分の1が医療や教育上の理由で兵役を免除されており、クレムリンは年に2回、適格者70万人の中から約20万人を徴兵する。

徴兵適格者に余剰人員はあまりない。そこでプーチン大統領は昨年の第1次動員の直前、新兵の年齢制限(40歳)を撤廃する法律に署名した。

ロシア指導部は何カ月も前に、ウクライナでの人的損失を補うには中年男性を徴兵し、囚人も徴募しなければならないと気付いていた。そうして集めた中年兵士や元受刑者らが死傷し、軍が新たな人員を必要としている今、クレムリンは教育免除を廃止し、さらに高齢者を徴兵するのか、それとも囚人に戦闘を強制するのだろうか。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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