これらの大隊は、戦場での優位性を確保する作戦行動(資金も時間もかけた訓練と、前線兵士の規律の高さ、指揮官の創造性が求められる)はせず、直接ウクライナ軍の陣地に突撃する傾向がある。いわゆる「人海戦術」だ。時間や資源に余裕のない軍隊がとる、手っ取り早くて安上がりな一時しのぎの戦法である。
ウクライナ軍は前線の大半で塹壕(ざんごう)を掘り、大砲の支援を受けているため、この戦法は自殺行為でもある。ロシアのニュースサイト「メドゥーザ」によると、ワグネルは9カ月間にわたり失敗続きのバフムート攻略戦で戦力の80%を失ったという。
ワグネルの戦いに志願することは事実上の死刑宣告であり、ロシアの囚人たちもそれを知っているようだ。米シンクタンク戦争研究所(ISW)によれば、「これまでに動員された元囚人の死傷者が多いため、ロシアの通常部隊と非正規部隊は、矯正収容所からの新兵徴募に苦慮しつつあるもようだ」という。ISWは、死傷者数の多さがロシア軍の戦闘能力を阻害し続けており、当局が今後の攻撃に備えて第2次動員に動くきっかけとなりそうだと指摘している。
しかし、動員可能な人の数は減っている。ロシア軍の人員100万人のうち、約半数は長期の契約軍人で、残りは18~27歳の徴兵軍人だ。徴兵制の兵役は1年間で、規定上は戦闘に参加しないことになっている。徴兵対象年齢のロシア人青年約100万人のうち、およそ3分の1が医療や教育上の理由で兵役を免除されており、クレムリンは年に2回、適格者70万人の中から約20万人を徴兵する。
徴兵適格者に余剰人員はあまりない。そこでプーチン大統領は昨年の第1次動員の直前、新兵の年齢制限(40歳)を撤廃する法律に署名した。
ロシア指導部は何カ月も前に、ウクライナでの人的損失を補うには中年男性を徴兵し、囚人も徴募しなければならないと気付いていた。そうして集めた中年兵士や元受刑者らが死傷し、軍が新たな人員を必要としている今、クレムリンは教育免除を廃止し、さらに高齢者を徴兵するのか、それとも囚人に戦闘を強制するのだろうか。
(forbes.com 原文)