政治

2023.02.07 19:15

ロシア、北極圏用防空車両をウクライナに派遣するも吹き飛ばされる

Tor-M2DT(Vitaly V. Kuzmin via Wikimedia)

Tor-M2DT(Vitaly V. Kuzmin via Wikimedia)

ロシアは、極寒と雪の北極圏で敵戦闘機を撃墜するために作られた特別製の防空車両を12台製造した。しかしそのTor-M2DTが戦闘デビューを飾ったのは北極から約4800km南のウクライナだった。

結果は散々なものだった。ウクライナに最初のTor-M2DTが出現してから2カ月間で、ウクライナ軍は少なくとも2台を破壊した。1台のTor-M2DTはロシアメディアがテレビ番組で特集を組んだ直後に最期を迎えた。

防空車両Torは1986年に稼働を開始した。自己完結型短距離システムで、主な役割は前線付近の戦闘大隊を防御することだ。

2020年1月、イラン軍のTorがイラン上空を飛行中のウクライナ航空機を、攻撃してきた戦闘機と誤って撃墜した。乗客乗員合わせて176名全員が死亡している。

Torにはいくつかの種類あるが、すべてがレーダーおよび射程距離12kmの180kgミサイルを最大16基搭載可能な戦闘車両を含んでいる。車両は内蔵レーダーで標的を捕らえミサイルを発射した後、変化する標的の位置を無線リンク経由でミサイルに伝える。「指令誘導」と呼ばれるプロセスだ。

40年にわたり、武器製造メーカーのAlmaz-Anteyは欧州の環境に最適化したTor車両を製造してきた。寒い冬、温暖な夏、雪が降ってもさほど積もらない気候だ。

しかし気候変動によって北極が温暖化し、鉱物資源の新たな貿易ルートが開かれると、ロシア政府は極北での戦闘に特化した戦隊の編成を始めた。Almaz-AnteyはTorのレーダーとミサイルを全地形対応車DT-30に搭載した。DT-30の広いトレッドと軽量な車体は、雪と氷の中の横断に適していた。

ロシア政府が最初にTor-M2DTをテストしたのは2019年だった。Almaz-Anteyは当初12台の車両を製造した。ロシアが1年前に始めたウクライナ侵攻での劣勢が強まるにつれ(ロシア政府は100台の対空防衛システムを失った)、Tor-M2DTは南へ進んでいった。

これはウクライナの同地域が冬に寒くもなく雪も降らないという意味ではない。しかし、ロシア軍はTor-M2DT部隊を第200独立自動車化狙撃旅団とともに、最近雪がなくなったウクライナ南部ヘルソン州へと展開した。

DT-30の低接地圧がヘルソンの沼地でTor-M2DTを移動するのに有利であることは確かだが、Tor-M2DTは……どうやら場違いだったようだ。それでも国防省計メディアのズベズダはTor-M2DTの展開を12月の番組で祝福することをやめなかった。

6週間後、ウクライナ軍第406砲兵旅団の保有するドローン群がヘルソン州でTor-M2DTの位置を突き止めた。報道によると、砲手はGPS誘導エクスカリバー弾を発射して、1月下旬から2月初旬にかけてのわずか数日の間に2台のTorを破壊した。

最初の攻撃が最も劇的だった。1発のエクスカリバーがTorを炎上させると、ロシア軍兵士らは持ち運び式消火器を持って駆け寄り、火を消そうと虚しく試みた。「消火器は役に立ちませんでした」とウクライナ防衛相が皮肉を述べた。そして2発目の砲弾はこの茶番を終わらせてしまった。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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