相続人ではないが、相続のカギを握る重要人物
二次相続において、きょうだいは法定相続人ですが、その配偶者はそうではありません。
では、まったく無関係なのかというと、必ずしもそうとはいえません。遺産分割協議にあたっては、陰の人物として影響力を及ぼすことがあります。
そこで、私たちが相続人のお宅を訪問する段になったときは、相続人が男性ならば奥さんに、相続人が女性ならば旦那さんに同席してもらって、話を聞いてもらうようにしています。
たいていの場合、「いえいえ、私は関係ありませんから」といわれるのですが、「いいえ、すごく重要な話で、夫婦は一心同体ですから」などと説得して、その場にいてもらいます。
もちろん、その人には相続の権利はないのですが、遺産分割協議をスムーズに進めるために、直接話を聞いてほしいのです。そうでないと、相続人から配偶者へ状況説明をする際に、「また聞き」になって正確に伝わりにくいからです。
とくに相続人が男性の場合、言葉で説明するのが得意でない人が多く、伝言ゲームのように一部誤って伝わったり、重要なポイントを伝え損なったりすることがよくあります。
そうでなくても、協議の結論だけを聞くと、納得できないことが多いものです。情報が正確に伝わらないと、「自分の夫はだまされているのではないか」「みんなにうまいようにやられているのかも」と奥さんは疑心暗鬼になってしまうのです。
そうなると、「譲ったらダメよ」「そんな結論は認められない」と旦那さんにハッパをかけることになり、せっかく前回決まりかけたことが、次の協議でひっくり返るということになりかねません。
実際には、そうしたケースはそれほど多くないのですが、相続人の配偶者が相続に口を出してくると、こじれやすいのは確かです。逆に、配偶者がきちんと状況を把握してくれていると、相続がモメることなく進む可能性が高まります。きょうだいの配偶者は、相続のキーパーソンといってよいかもしれません。
天野隆(あまの・たかし)◎慶應義塾大学経済学部卒業。税理士法人レガシィ代表社員税理士、公認会計士、宅地建物取引士、CFP。相続専門税理士法人として累計相続案件実績件数は24000件を超える。アーサーアンダーセン会計事務所を経て、1980年から現職。『やってはいけない「実家」の相続』(青春出版社刊)他、99冊の著書がある。