走っているのは、昨年、開発チームが100日未満で製作した概念実証用のトラックで、水素を使い、燃料補給なしで20分間走行が可能だ。チームは現在、機関車と船舶用の水素エンジンの試作に取り組んでおり、今後1年以内にそれを発表する計画だという。
「私たちのエンジンが二酸化炭素を出さずに走行しているのを見たとき、“未来の匂いは無臭だ、未来の音は無音だ”と思いましたよ。未来の予兆も見えた。未来の燃料は石油とガスや石炭と同じかそれ以上に効率的なのです」(フォレスト)
化石燃料由来のブルー水素やグレー水素とは異なり、グリーン水素は製造過程で二酸化炭素を生み出さないが、途方もない資源を必要とする。電解槽を風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギーと組み合わせて使い、水を水素に分解するのだ。だが、そうした水素を使って燃料電池で電気をつくるとき、排出されるのは水蒸気のみだ。
開発中の運搬用トラックはもちろん、いずれは船舶、航空機でもグリーン水素を燃料とすることを目指すFFIは、この1年で1000人近い人材を採用し、エネルギー業界のリーダーたちを要職に就けている。今年7月からCEOとしてFFIに入社したマーク・ハチンスもそのひとりで、ゼネラル・エレクトリック・ヨーロッパの元社長兼CEOだ。
フォレストが世界各地で支持を集めるのに忙しい一方で、FFIの本社では、同社の世界的規模の野心が明確に見て取れる。ガラスの壁で仕切られた各部屋には、ヨルダン、コンゴ共和国、アルゼンチンと国別担当チームの名前が明記されている。ただし、FFIが最大の商機を見いだしているのは米国だ。FFIの元CEOジュリー・シャッターワースは言う。
「米国ではグリーン水素の製造もできますし、販売もできます。米国ほど重要な市場はありません」
フォレストがクリーンエネルギーの夢を実現させるためには、水素が直面する技術的な課題を克服しなければならない。
トヨタやヒョンデ(現代自動車)といった企業は消費者向け水素自動車の開発に何十億ドルも投資しており、水素活用の中心的な提唱者となっている日本は、東京オリンピックで水素バスを運行し、聖火の燃料にも水素ガスを用いた。
欧州連合(EU)もグリーン水素に熱い視線を注いでおり、30年までに年間1000万tのグリーン水素を製造するようエネルギー生産者に圧力をかけている。
米国でも、今年2月にはバイデン大統領が水素部門への95億ドルの補助金拠出を発表。今後10年で水素価格を1kgあたり5ドルから1ドルまで引き下げ、ガソリンと競争可能にするのが目的だ。