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2023.02.10

豪州の鉄鋼石採掘王がつくる、グリーンな水素は未来を変えるのか

豪鉄鉱石採掘大手フォーテスキュー・メタルズ・グループ(FMG)の創業者アンドリュー・フォレスト Chet Strange / The Washington Post / Getty Images

君子・フォレストは豹変す?

フォーブスの推定では、フォレストが鉱業で築いた資産は166億ドルに上り、現在はオーストラリアで最も活動的な慈善家となっている。FFIは地球をよりよい状態で残すための手段だと、彼は語る。

「有意義な人生を送りたいのです」(フォレスト)

西オーストラリア州の初代州知事の子孫であるフォレスト家に生まれた彼は子供のころ、米ニューヨーク市の約3倍の面積をもつ一族の牧場、ミンダルーで多くの時間を過ごした。政治経済の学位を取得して西オーストラリア大学を卒業すると、株式仲買人として働き始め、1993年にアナコンダ・ニッケルに投資し、同社のCEOに就任した。

アナコンダの経営はうまくいかなかった。それでも2002年に小さな探鉱会社を買い取って立ち上げたFMGのトップとなり、フォレストは再び表舞台に立った。彼の構想は、ある勘に基づいていた。子供時代から知り尽くす西オーストラリアのピルバラ地方に資源採掘の将来性があると信じていたのだ。

FMGは、中国の鉄鉱石需要の波に乗った。出荷を始めた08年、鉄鉱石価格は1tあたり30ドルから200ドルに上昇。フォレストが11年にCEO職を退いて会長に就任したとき、同社は55億ドルの収益と10億ドルの利益を生んでいた。

現在、オーストラリア第8位の大企業となったFMGの企業価値は420億ドル。21年の純利益は90億ドルだった。

ただし、鉱山王となったフォレストの世界有数の鉄鉱石生産会社は、オーストラリア有数の二酸化炭素排出者でもあった。CEOを退任後、フォレストと妻のニコラは多くの時間を慈善事業部門のミンダルー財団に費やし、大規模な問題に取り組むようになった。地球温暖化は特に主要な課題となった。

16年から、フォレストは西オーストラリア大学で、4年がかりで海洋生態学の博士課程を履修。そのころ自身のチームに、水素やアンモニアを輸送できるテクノロジーの調査と、太陽光発電の規模拡大が可能であるかの調査を命じた。彼は、化石燃料セクターが、この惑星に暮らす全員の未来をどれほど危険なかたちで握っているかに気づいたと語る。

20年にFFIが創業されると、あるコラムニストは「今世紀最大の“グリーンウォッシング(うわべだけのエコ)”だ」書いた。フォレストに悪びれる様子はないが、化石燃料を使って富を築いたという見方について尋ねられると、その表情は冷ややかになる。

「そうでない人間がいるでしょうか。これまで主要な製造業、主要なエネルギー消費に携わってきたからこそ、“これからはグリーンだ”という私の意見にエネルギー業界が耳を傾けるのです」(フォレスト)

FFIは、2つの任務を帯びている。水素燃料のインフラと自動車を開発して、FMGの事業を30年までに脱炭素化すること。年間1500万tのグリーン水素とグリーンアンモニアを生産し、販売することだ。
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文=デビッド・ジーンズ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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