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2023.02.10

豪州の鉄鋼石採掘王がつくる、グリーンな水素は未来を変えるのか

豪鉄鉱石採掘大手フォーテスキュー・メタルズ・グループ(FMG)の創業者アンドリュー・フォレスト Chet Strange / The Washington Post / Getty Images

FFIは、FMGの年間利益の10%を資金として受け取ることになっており、その額は21年には10億ドル近くに上った。

20年の創業以来、同社は記録的な早さで概念実証用の水素燃料の運搬用トラックや掘削装置を開発しており、23年までに水素燃料の機関車や船舶を発表する見込みだ。FMGの鉱山の一部は現在、主に太陽エネルギーで稼働しているが、FFIは8300万ドルを投じて水から水素を抽出する電解槽を製造する施設を建設している。

一部からは、フォレストが自らの手に余る試みに乗り出しているのではないかという声も聞かれる。だが、同じオーストラリア人のビリオネアで、ソフトウェア大手アトラシアンのマイク・キャノンブルックス共同CEOはそこが「彼の素晴らしいところ」だと言う。太陽光発電による電力をアジアに送る事業でフォレストと手を組んでいる人物だ。

「フォレストはガッツが6、ホラが7の人間だが、彼の構想の一部は本当に実現される。20年もすれば結果がわかるでしょう」(キャノンブルックス)

水素は非効率な電力源だという見解は広く受け入れられている。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究によると、グリーン水素の充放電効率は18~46%、フロー電池(酸化還元反応を利用して充放電を行う蓄電池)の充放電効率は60~80%であることがわかっている。

世界一の富豪のイーロン・マスクは今年5月、年来の自身の意見をあらためて表明し、製造に必要なエネルギー量を鑑みると、水素は「エネルギーの貯蔵媒体としては考えうる限り最もバカげている」と語っている。

水素の生産は経済性に問題があるとの主張もある。オーストラリアの電力市場を分析するIKTサービスのエネルギーアナリストで、シドニーに拠点を置くデビッド・リーチは、ガスなどのほかの資源が手頃な価格で利用できることから、水素は政府の補助金や投資がなければ真の意味では売り物にならないと指摘する。

フォレストはこれらの見解を一蹴し、石炭の例を挙げる。米国の石炭も効率が悪く、電力に変換した後のエネルギー変換効率は約33%だ。それでも石炭は世界で最も手厚い補助金を受け取っている産業のひとつであり、国際通貨基金(IMF)の調査によると、化石燃料産業は20年に世界全体で5兆9000億ドルの補助金を受け取っていたという。
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文=デビッド・ジーンズ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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