また面白いのは、物理的にCO2排出量を印刷したのではなく、バイオベースのNFCタグをトリガーとして、パーカーひとつ一つにユニークなデジタルIDを付与し、そのニットのサプライチェーンのストーリーを追跡・解明できるようにしたことです。
NFCタグからアクセスできる情報は、カーボンインパクトだけではなく、それを編んだ人、生産にかかった時間、そのアイテムを作った羊、毛を刈った日、最後に予防接種を受けた日、羊の名前にいたるまで、パーカーがたどった来歴を見ることができます。
あなたが着ているパーカーのウールが、「Daisy」という名前の羊から刈り取られたものだと分かったときに、その肌触りは一層特別なものに感じられるようになるかもしれません。(NYT)
日本では201点の製品が認証を取得
日本も決して遅れているわけではありません。2008年の低炭素社会づくり行動計画の策定以来、政府は消費者への見える化としてカーボンフットプリントの制度化の推進・普及を進めてきました。2012年には、産業環境管理協会によるカーボンフットプリントプログラムの運用が開始されました。現在は、サステナブル経営推進機構がその認証を実施し、2022年8月時点で、201点の製品が認証を取得しています。
認証された製品を見ると、工業製品や耐久財がほとんどですが、唯一、清涼飲料としてCOOPの「ただの炭酸水」が製品1本当たりのカーボンフットプリントが280g-CO2eであると2019年に認証されていました。
しかし、当時は実際にPETボトルのラベルにその数値が印刷されていたのですが、現在の製品にその印刷はありません。COOPの担当者によると、「流通が複雑で、計算方法もあいまいだということが分かり、またカーボンラベリングが世の中の主流ではないため、2020年度から表示をやめてしまった」とのことです。
私たちがすべきこと
サプライチェーンがグローバルに複雑化し、消費の方法も多様化した今、100%正しいカーボンラベリングを求めることは非常に困難です。しかしそれはこの流れを止めて良いという理由にはなりません。先述のUnileverのEngelが言っているように、「私たちは、競争しようと思っているわけではありません。気候変動に関しては、共に勝つか、共に負けてしまう」のです。
ですから、各企業、消費者は、多少間違っていたとしても、それを非難するのではなく、どうすればより良い表示になるのか、失敗から学び、知恵を出し合う必要があるでしょう。
加藤順也◎Avery Dennison Smartrac Japan マネージングディレクター。LVMHグループ、Kurt Salmon US を経て2011年にAvery Dennisonに入社、2019年4月から現職。小売業や消費財メーカーへのコンサルティングやソリューション開発が専門。Avery Dennisonにおいて、マーケット開拓やRFID導入プロジェクトをリードし、日本支社の成長を牽引。上智大学卒。UCバークレーHaasビジネススクール DLAP修了。