しかし、ソニーのメタバース関連展示は、長年、クリエイター向けに取り組んできたバーチャル化技術への知見が、具体的なコンシューマ向け製品あるいはサービスへのアウトプットとして活かされた具体的なものであった。
そのうちのいくつかは今後、多方面のクリエイター、あるいは積極的に情報発信を行うプロシューマ層の意識を刺激し、新しいカルチャーを生み出す種となるだろう。
ソニーといえば、かつては映像、オーディオ、ゲームを高い品質でコンシューマにもたらすブランドだったが、デジタル化された仮想空間をコンシューマにとって身近にするブランドにもなりつつある。
クリエイターを支える技術がもたらすもの
過去数年、吉田憲一郎氏がソニーグループのトップの就いてから、同社はグループ内で開発してきたバーチャル化技術を強く訴求していた。“バーチャル化”といっても幅広く、例えばスタジオセットをまるまる立体的にキャプチャしておき、後にCGで再現したり、高精細な巨大LEDディスプレイでセットを再現しながら撮影するといった映像制作に関わる部分から、360 Reality Audioの制作環境やその再生環境に関するもの。さらに業務用展示に関するものなど幅広く、特定用途での使い途は理解できるものの、具体的にそれが企業価値としてどう広がっていくのか、想像しにくい部分もあった。
しかし今回のCESではデジタル仮想空間の技術に関して、より実践的な内容での展示を行っている。
日本ではひと足先に披露されていた、コンシューマ向けモーションキャプチャデバイス「mocopi」は、VR Chatなどに参加するユーザーに極めて簡素な携帯できるデバイスでモーショントラッキングの機能を提供するが、CES 2023ではこれを映像制作におけるプロトタイピングに活用する事例を紹介していた。
mocopiを装着してアクションを行い、それをモーションデータとして取り込み、CG制作ツール側のアニメーションデータとして使うことで、鍵となるキャラクターの動き演出を何度もやり直しながら作業できる。
そのままファイナルのアニメーションに使えるわけではないが、さまざまなシーンの演出を手軽に3D空間に取り込んで検討できるという意味でこれほどカジュアルな手法は過去にはなかった。
CESでの展示はコンシューマ向けのmocopiをプロの制作現場で活かすというものだったが、一般ユーザーでも扱えるよりシンプルな3Dアニメーション制作ツールが増加してくれば、こうしたモーションキャプチャデバイスがプロシューマにも広がるだろう。
今や誰もが動画制作に取り組める“誰でもプロシューマ時代”と言えるが、その領域を広げる部分でソニーは強みを発揮しそうだ。