ソニーのメタバース技術、“仮想空間”をコンシューマの手元へ

マンチェスターシティとのメタバース活用

ソニーのメタバース関連展示で良かった点は、単に技術的な面での訴求をするだけではなく、アプリケーションとしてのアウトプットをきちんと用意していたことだ。

カタールで行われたFIFAワールドカップでも話題となったホークアイ・イノベーションの技術は、多数の高精細カメラの映像から立体的なプレーヤやボールなどの動きを、高い制度で分析するものだ。テニスのイン/アウト判別がよく知られているが、元々は英国やインドで人気が高いクリケットを楽しむためのシステムだった。

プレイを極めて高精度に3Dデータとして保存できるため、それを3Dレンダリングすることでさまざまな角度から再現しつつ分析できる。クリケットは試合が長時間に渡る上、過去の打席における投球内容などが試合観戦における重要なデータであるため、ホークアイのシステムを使った有料情報サービスに多くの消費者が飛びついた。

そう、ウィンブルドンの判定システムに使われていることから、多くの人がホークアイを判定用の技術と捉えているが、そもそもはスポーツエンターテインメントをさらに盛り上げるためのツールなのだ。

英国プレミアリーグのマンチェスターシティとソニーは、このデータを遠隔地に住む顧客とのエンゲージメントを高めるために使った。マンチェスターシティのファンのうち98%は英国外に在住だという。これはやや大袈裟な数字と捉えたとしても、プレミアリーグのファンが、英国内よりも海外の方が大きいこという主張違和感はない。

つまり、ネットを通じたメタバース空間でのファンエンゲージメントが極めて重要ということだ。

本拠地で行われた試合の名場面を3Dデータ化し、自分の視点を変えながら好きなように何度でも楽しめる感覚は、なかなか斬新だ。

もうひとつ、マンチェスターシティとの協業で使わていたのが、可搬性のある小型のボリュメトリックキャプチャのシステムだ。ボリュメトリックとは、実在する映像空間の動きすべてを3Dデータに置き換えるシステムのことだ。

ソニーの小型ボリュメトリックキャプチャシステムは、映像センサーとToFセンサーを搭載するカメラ7台を配置すると、そのカメラの中で動く人物などを立体的にキャプチャしてくれる。簡素なシステムのため、形状精度などは高くないが、スマートフォン向けならば十分な品質がある。

マンチェスターシティでは、このツールを有力選手とファンの間を繋ぐサービスとして活用している。ボリュメトリック映像のキャプチャは大規模な装置が必要だったが、少々の解像度が低いとはいえ、実際に選手の仕草や癖がわかる程度には捉えることができる。

何よりも選手との距離を近く感じられることは、ファンを基礎としたビジネスでは重要だ。
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