教育

2023.01.21

私的なことは私的なままに、王子にふさわしい倫理的義務

Photo by Andrew Lichtenstein/Corbis via Getty Images

先ごろ出版された、英王室ヘンリー王子の回顧録『スペア』と、この出版に付随して起こった注目の波は、王室以外にも当てはまる倫理的な問題を提起している。我々はなぜ、私的なことを私的なまま秘密にしておくべきなのだろうか?

倫理的知性の重要な原則は、「他者の尊重」

親は子どもたちに、リスペクト(他者の尊重)がどんなに大切なものであるかを言って聞かせる。しかし、他者の尊重と倫理的知性には、どんな関係があるのだろうか? 他者の尊重とは、単なるエチケットの問題なのだろうか?

他者の尊重とは、単なるエチケットの問題だけにはとどまらない。確かに、ディナーに招待した客が手土産を持たずに手ぶらで来たり、あまりに長居をしたり、トイレを汚したりしたら、その客は、マナーの悪さを通じて、その家の人を軽んじていることになる。だが、他者の尊重には、他の側面もある。つまり、最も重要な事柄に触れるものであるゆえに、倫理的な領域の中心に存在する側面だ。

ディナーの招待客が、口を開けたまま咀嚼するのは、「マナーの悪さ」の一例だ。一方、ふたりで話したプライベートな会話の内容を、他の皆に話したり、あなたが置いていった財布から金を盗んだり、あなたの薬箱の中身をツイッターの4000人のフォロワーに教えたりするのは、また別の話だ。

これらは、どちらも他者への尊重を欠いた行為だが、後者で挙げた一連の行為は、傷口がより深く、より大きな損害を与える。不作法な行為やぶしつけな行為は、エチケット違反だ。一方、他者に害を与える行為や、他者の権利を侵害する行為は、倫理に反する。倫理的知性のある人は、他者の価値観や好み、そして最も重要な彼らの「権利」に敬意を払うことで、より深い意味での尊重の念を表すのだ。

私的なことは私的なままに

「他者の尊重」という原則に基づく倫理的なルールがある。「私的なことは私的なままにする」というルールだ。これを真剣に受け止めなかった場合の危険性を明らかにした実話をご紹介しよう。

ある病院でエレベーターに乗っているとき、2人の医師が、ある患者について話しているのを耳にした。医師たちは、その患者のフルネームを出し、彼が4枝心臓バイパス手術を受けたばかりであることを話していた。

筆者はその人物のことを知っていたが、手術をしたことは知らなかった。彼が健康上の問題を抱えていることも知らなかった。そこで考えた。「お見舞いのカードを送るべきだろうか? だが、どうして療養中だとわかったのかと聞かれたらどうしよう?」と。「病院のエレベーターの中で、医者たちがあなたのことを話しているのを聞いた」なんて、とてもじゃないが言えやしない。

人前で機密情報を話すということは、他の人に属している何かを、その人が知らないうちに、あるいはその人の同意なしに、持ち出すということだ。それは窃盗行為にほかならない。筆者が出会った医師たちは悪い人間ではなかったし、患者のプライバシーを侵害するつもりはなかったはずだ。しかし、あの狭い公共空間での会話は、倫理的知性とは相容れないものだった。

倫理的知性のある人は、秘密であるべき情報を尊重し、それを守るために最善を尽くす。
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翻訳=ガリレオ

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