政治

2023.01.26

中学生が手嶋龍一氏と「ウクライナの戦争はなぜ防げなかったのか」を考えた

東京都渋谷教育学園渋谷中学校の生徒が外交ジャーナリスト手嶋龍一氏とウクライナ戦争を考えた(写真=曽川拓哉・コラージュ加工=中根涼花)

──(柴)なぜ、ウクライナの戦争は防げなかったのでしょうか?

ウクライナへの侵攻は、あらゆる国際法規や国連憲章に真っ向から反する不正義で弁解の余地はまったくありません。しかし、プーチンの侵攻を抑止することができず、許してしまった超大国アメリカの責任もまた重いと言わざるをえません。現にバイデン大統領は、ロシア軍がウクライナへ侵攻するのは確実と言いながら、アメリカは経済制裁は実施するが、武力行使はしない、軍をウクライナには入れないと明言していました。僕はバイデン政権に武力行使をすべきだったとそそのかしているのではありません。自分の執務室の机の上に「武力行使という選択肢はない」などと言うべきではなかったと言っているにすぎません。国際紛争に応じる究極の手段を使わないと手の内を明かしてしまった。それによって、プーチン大統領の戦略を抑止できなかった、戦争の抑止に失敗してしまった。その誤りはやがて歴史の審判を仰がなければならないでしょう。



超大国を率いるアメリカ大統領の責務はこのように限りなく重いのです。

「核の抑止理論」を受け付けなかった「元ハリウッド俳優」大統領の洞察

最後に冷戦を終結に導いたロナルド・レーガン大統領に触れて、このレクチャーを締めくくりたいと思います。レーガン大統領という政治指導者は、核の戦略家たちが唱えていた「相互確証破壊」という理屈を決して受け入れようとしませんでした。核戦争の人質に自国の国民をさしだすという理屈を拒み続けたのです。それゆえ、ソ連の長距離ミサイルを迎撃する戦略防衛構想を推し進め、中距離核の全廃条約に調印し、冷戦の終焉に向けた序曲を奏でました。その揺るぎない信念と実行力の故に20世紀で最も偉大な大統領のひとりと歴史家から評価を受けています。

現職にあった時には、東部の名門大学で教育を受けたことがなく、ハリウッドの俳優上がりで、あまり知的な人物とは言えないという低い評価しかメディアからは受けていませんでした。こうした評価が表面的なものだったことはいまや明らかです。21世紀という危機の時代に社会に出ていく皆さんも、偏狭な常識に惑わされることなく、時代の潮流を見定めて、自分の一生を賭けるにふさわしい目標を見つけてほしいと思います。心から期待しています。

このハリウッド映画のスター出身の政治家は、自国民を核戦争の人質に差し出すことを前提とした「核の抑止理論」を決して生涯にわたって受けつけようとしませんでした。

参考資料:「情報感覚」を磨くために

“インテリジェンス”とは、国家が生き残るための情報です。膨大で雑多な“インフォメーション”から選り抜かれ、分析された「情報のダイヤモンド」です。



日本語では「intellignece(インテリジェンス・極秘情報・諜報)」と「information(インフォメーション・一般情
報)」が、共に「情報」と訳されますが、この2つの言葉は対極に位置しています。

『武漢コンフィデンシャル』(2022年、小学館刊)

武漢コンフィデンシャル』(2022年、小学館刊)


手嶋龍一(てしま・りゅういち)◎作家・外交ジャーナリスト。NHKワシントン支局長として9・11同時多発テロに遭遇し、11日間の連続中継を担当。NHKから独立後に発表した『ウルトラ・ダラー』、続編の『スギハラ・ダラー』がベストセラーに。同シリーズ・スピンオフに『鳴かずのカッコウ』、最新刊は『武漢コンフィデンシャル』。ノンフィクション作品も『汝の名はスパイ、裏切り者あるいは詐欺師』『ブラック・スワン降臨』など多数。

編集=石井節子 撮影=曽川拓哉

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