ビジネス

2023.01.12

気候変動対策とSDGsの「相乗効果」は可能だ

竹本明生

持続的な社会を実現させるため、企業は気候変動対策のみならずSDGsへの対応を迫られている。一見すると両立可能に思えるが、実は複雑な課題が潜んでいる。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書によると、気候変動をSDGsと両立させることで生まれる経済効果は2070年までに43兆ドルに達する見込みだ。しかし、「世界の現状を見る限り、両立への道筋はまだ描けていない」と、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)プログラムヘッドの竹本明生は指摘する。

最大の難関は、地球温暖化対策を講じることによって、別の社会課題が生じることがある点だ。二酸化炭素(CO2)の排出量を削減するために再生可能エネルギーの生産を推し進める場合を考えてみよう。広大な土地を切り開いてメガソーラーを建設すれば、その土地の生態系に悪影響を及ぼす危険性がある。エタノールなどのバイオマス燃料への取り組みに関しても、トウモロコシやサトウキビなどが原料になるため食糧生産との競合を生む。これらはSDGsが掲げる生物多様性の確保や飢餓の解消といった目標に反しかねない。

「環境や気候変動対策という側面だけでなく、社会的、倫理的にもクリーンなのか。環境・社会・経済的側面も含めた価値や正当性が問われる時代だからこそ、企業は自社の取り組みがもたらす影響を多角的にとらえる必要がある」

欧州連合(EU)は、持続可能な経済活動の基準としてタクソノミー規則を定め、域内の企業の製品や金融商品に環境関連の情報開示を義務付けている。「今後、貿易相手国にも同様の対応を順次求めてくるだろう」と竹本は注意を促す。

今後さらに求められるのは、SDGsが掲げる「誰ひとり取り残さない」気候変動対策だ。クリーンエネルギーにアクセスできない社会的弱者は発展途上国以外にも存在するはずであり、これを解決することは「日本を含めた世界全体の問題だ」と竹本は指摘する。

「気候変動対策はややもすると、再生可能エネルギーや高度な省エネ機器の技術開発に偏りがちだ。誰ひとり取り残さない対策を講じるためには、政府や自治体、企業や研究者だけではなく、地域住民や利用者など異なる関心をもった人々が一緒に議論し、最善の解を見いだしていくアプローチが必要だろう」

複数の課題解決でシナジーを生む


複数の課題を同時に解決する「トレードオン」への道程を描くことも重要だ。日本は20年に、当時の菅義偉首相が「50年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言した。その後の日本企業の動きについて、竹本は「企業が脱酸素の目標を掲げたことは評価できるが、それらの取り組みは社会課題を含むSDGsにも貢献することを明らかにすべきで、複数のゴールを同時に設定して取り組む必要がある」と指摘する。
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文=中田浩子

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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