ハリウッドの「多様性」重視 アジア系映画のヒットが続く理由

ディズニーの実写版「The Little Mermaid」のアリエルを演じたハリー・ベイリー(左)(Getty Images)


Andria Wilson Mirza氏は、こうした映画制作のプロセスにおける多様性について「カルチャーの変革に貢献しようとする支援団体や専門家は、世界中のインディペンデントフィルムメーカーにとって心強い存在だ」と述べ、映画制作の門戸を開くこうした業界の潮流が人々をエンパワーメントしていると示唆した。

セッションでは、あらゆるバックグラウンドを持つ多様な人々がお互いを思いやり、素晴らしいチームワークを構築しながら映画を制作するプロセスの重要性についてディスカッションされたが、ハリウッドの映画制作におけるさまざまな課題の解決に向かって、情熱を持って活動しているプロフェッショナル達の姿は、世界中のクリエイターにエネルギーとインスピレーションを与えるにちがいない。

多様なアジア系映画に注目が集まる


米国のレプリゼンテーションの傾向や映画制作における多様性は、日本人の私たちにとってどういう意味を持つのだろうか。セッション後に、Pamala Buzick Kim氏からコメントをいただいた。

「今後米国では、アジア系とラテンアメリカ系の人口が増えると言われています。ただ、映画やTVのアジア系レプリゼンテーションについては、コンテンツの数が人口に追いついていないのが現状です。一方で、アジア系映画やドラマのヒット作品が増え、注目度は高くなっています」

Pamala Buzick Kim氏によると、『Squid Game(イカゲーム)』などのヒットに続き、2022年に米国で話題を呼んだアジア系映画「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)」は新しいタイプのストーリーテリングとなっており、全米で大きな評価を受けたことでハリウッドにおけるアジア系の存在感がさらに上がり、多様なストーリーへのニーズが高まっているという。

「これまで、私たちアメリカ人は、『アジア系』とひとくくりに考えていた傾向にありました。しかし、こうしたアジア系映画のヒットを通して、同じ人種における、さまざまな国の多様なカルチャーやストーリーについてより知りたいと注目する人が多くなっていると言えます。今後ハリウッドで多様なアジア系のストーリーが求められるでしょう。これはクリエイターにとってチャンスと言えます」

AMERICAN FILM MARKET

世界中のクリエイターとさまざまな映画制作プロジェクトとつなぐ「Free The Work」のエグゼクティブディレクターとして、Pamala Buzick Kim氏は、今後も、多様な声をストーリーに反映することを目指し、さまざまなバックグラウンドを持つクリエイターを支援していくという。

メインストリームの外にあった多様なストーリーをもっと楽しみたいという生活者のニーズが、世界中のクリエイターが活躍する機会を創出する。このポジティブな連鎖がより大きくなれば、多様な作品の商業的な成功につながり、それぞれの才能や個性をインクルーシブに発揮できる新しい市場も生まれるかもしれない。

困難な時代においても、ゲームチェンジャーとして映画業界に変革をもたらす映画人達。「AMERICAN FILM MARKET」の開催中、その力強く希望に満ちた言葉が印象的だった。

スクリーン上から映画制作の現場まで、ハリウッド映画のレプリゼンテーションとインクルージョンがもたらすエンパワーメントに今後も注目したい。

文、写真=田辺敦子

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