ハリウッドの「多様性」重視 アジア系映画のヒットが続く理由


また、スケールの大きな社会問題に直面する現代において、将来に希望を見出せない子供達が多くなっている現状に配慮し、映画が社会に与えるインパクトについてこれまで以上に考える必要性を示唆する意見もあった。

ディズニーの実写版「The Little Mermaid(リトル・マーメイド)」のアリエルをアフリカ系アメリカ人女性ハリー・ベイリーが演じ、SNSで大きな反響を呼んだのは記憶に新しい。あらゆる人種のレプリゼンテーションによって、子供たちが自身のロールモデルを映画の中に見出し希望を持つのだとしたら、先行きの不透明な今の時代に、多様性を描く映画の意義は大きいと言えるのではないだろうか。

制作現場の多様性から生まれるクリエイティビティ


会場では、スクリーン上の多様性だけでなく、映画制作現場のダイバーシティ&インクルージョンについても、さまざまなディスカッションが行われた。

中でも印象的だったのは、映画業界の多様性を推進するさまざまなNPO団体やコミュニティが存在し、デジタルを通じた多様なツールで仕組みをつくり業界のダイバーシティを牽引しているということだ。

例えば、映画業界の男女平等を推進するコミュニティ「ReFrame」は、インクルーシブな制作現場を目指すプロフェッショナルのためのリソースをオンライン上で提供する「ReFrame ReSource」を11月にリリース。これまでも、ジェンダーバランスのとれた多様な雇用を実現した映画に認証マークを付与するなど映画業界の多様性を促進している。

「Tools For Culture Change: Building Your Production’s Gender Equity Action Plan(文化を変えるツール:プロダクションのジェンダー平等アクションプラン)」と題したセッションでは、「ReFrame」のディレクターAndria Wilson Mirza氏がモデレーターを務め、公平な映画業界を目指すプロフェッショナル達と議論を交わした。

「人種的に多様で約20%が LGBTQ+であると言われるZ世代は、自分自身や友人が表現されている映画を観たいと思っています。LGBTQ +を描く映画は多くなりましたが、制作サイドでは、LGBTQ +のクリエイターはまだ少ないのが現状です」

こう指摘するのは、エミー賞にノミネートされたプロデューサーでトランスジェンダーメディア「GLAAD」のディレクターであるAlex Schmider氏だ。

「ストーリーはそれだけで存在するわけではなく、文化、歴史、未来の中で生きています」と語る同氏は、LGBTQ +のストーリーをよりリアルに伝えるために、コンサルタントとして映画制作プロジェクトに参加し、LGBTQ +の文化や歴史などの文脈を取り入れ、よりクオリティの高い映画制作をサポートしているという。

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さらに、その制作過程で、多様な視点を持つ人たちが意見を交わし、同じビジョンに向かってコミュニケーションをとりより良い関係を築くことで必然的により良いストーリーがスクリーンに反映されると指摘。映画制作における多様性とクルー同士の信頼関係の重要性を強調した。

映画業界のダイバーシティ&インクルージョンをグローバルに推進するNPO団体「Free The Work」は、世界各国の多様なクリエイターが登録するデータベースを管理しており、映画制作のそれぞれのプロジェクトに合ったクリエイターを紹介している。

同団体のエグゼクティブディレクターPamala Buzick Kim氏は、「重要なのは、より多くの声が作品に反映されることです。多様な視点からより多くの物語が語られ、多様な物語からより多くの共感が得られ、より意識の高い世界になると考えています」と述べ、データベースに登録されているクリエイターをサポートし、その未知の才能とさまざまな映画プロジェクトをつなぐ活動について紹介した。
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文、写真=田辺敦子

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