ドラマ「silent」大ヒット支える 耳の聞こえないアイドルの挑戦


撮影が始まる前の段階で役者さんには声なし、通訳なしで自己紹介する経験をしてもらってから手話のレッスンに取り組んでいて、その時に「心を込めて会話する」ことを大切にしてほしいとお話しました。撮影時には、手で表すのが難しい時は違う表現を使ってもらったりして、なるべく自然な手話表現に見えるように言葉を選びながら進めてきました。

──想と同じように中途失聴の中嶋さんは、高校1年生の時に聞こえなくなったそうですね。

私は生まれつき難聴だったようですが、中学生の頃中度難聴くらいで気づき、聞き取りづらいので補聴器を使っていました。それから高校1年生で突然聞こえなくなったんです。

想はだんだん聞こえなくなりましたが、私の場合は本当に突然の出来事でした。いつか聞こえなくなるんじゃないかという不安を感じることなく、すごくショックでした。私は3歳からバレエをしていて、プロのバレエダンサーになりたいと一生懸命練習していたのに、その夢は消えてしまったのです。

耳が聞こえなくなってから、母が手話パフォーマンスを教えてくれました。でも自信がなく、現実を認めたくない気持ちが強かったので最初は興味がありませんでした。

気楽な感じで行ってみたら、初めてろう者の方と出会い、手話を見た時にものすごく感動しました。難聴の時は声で話せるものの、周りの言っていることがはっきりと分からないことがよくありました。特にグループでの会話は、会話についていけない。みんなが突然笑いだすと、分からなくてもその場に合わせるような感じで自分の気持ちをなかなか言えませんでした。

手話は目に言葉が見えて、そしてそれが分かって感動したんです。聞こえなくなってからは授業についていけないこともあり、ろう学校に転校しました。分からない手話を「それ何?」と毎日聞いて身につけました。今は声は出さず、手話中心の生活をしています。

──「silent」では想に共感することが多いですか。どんなシーンが好きですか。

想も声にこだわらず、手話で表現するようになったのは、手話で生活するろう者の奈々さん(夏帆)がきっかけです。ろう者になった背景や出会った人によって生き方や考え方は変わってくるんだなと思いました。

ですが、私は想とは全く関係なく、手話教室の春尾先生(風間俊介)が好き。彼は聴者ですが度々厳しい言葉を言っていて「なんで?どうしてだろう?」と思ってたんですが、実は温かい人。春尾先生が出てくると興味をもって見てしまい、全てのシーンが好きです(笑)

最初、居酒屋のシーンで「ヘラヘラ生きている聴者のみんな」という言葉がありましたが、聴者の方々にとってはショックなんじゃないかなと驚きました。ですが、本音を言えば、ろう者や難聴者の世界では色々な感情があり、リアルに表しているように感じます。

手話パフォーマー 中嶋元美

──手話パフォーマーと手話監修の仕事はいつから始めましたか。

10年ほど前から、最初は練習生・研修生として手話パフォーマーの劇団に通っていました。舞台への出演や練習を重ねて仕事としてやるようになったのは残りの5年くらい。2020年に劇団をやめて今はフリーで仕事をしています。

手話監修も10年近く前だったかな。劇団に仕事の依頼があり、聴者の代表と一緒に現場に行ったのがきっかけです。それから劇団を通じてフジテレビの2014年のドラマ「若者たち」の手話監修など色々しました。「silent」はフリーになってから初めて1人で依頼を受けました。

本音を言うと、私は裏の仕事がやりたい訳ではありません。手話パフォーマーとして舞台に立って芝居をやってみたいと、表舞台に出る夢があります。
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文=督あかり

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