「疫神記」チャック・ウェンディグ
チャック・ウェンディグ「疫神記」(C)竹書房文庫
最後は、まとまった休みにこそ相応しい超特大の上下巻を。スティーヴン・キングは「ザ・スタンド」で、ロバート・R・マキャモンが「スワン・ソング」で、また今世紀に入ってからはコーマック・マッカーシーも「ザ・ロード」で描いた終末の風景の中を行く人類の旅の物語を、現在形としてアップデートしたのが、チャック・ウェンディグの「疫神記」(茂木健訳・竹書房文庫)である。
新彗星がペンシルバニアの夜空をよぎった晩、15歳の少女ネッシーが姿を消した。姉のシャナは、ゾンビのようにひたすら歩行する妹に寄り添い、旅を始める。夢遊病でもなく、前進を阻止すると激烈に反応する妹は、何に突き動かされ、どこへ向かおうとしているのか? やがて仲間は増え、列をなす行進は次第に膨れ上がっていく。テロや政府の謀略が囁かれるなか、ある専門科が原因解明の糸口を見出すが。
人類の歴史の終わりなのか、それとも新しい始まりなのか。敢えてジャンルにあてはめるなら、一種の終末SFなのだろうが、謎のスリープウォーカーをめぐる先の読めない展開と意表を突く絵解きの面白さは、まさに巻を措く能わず。人類の未来を占う予言の書でもある。
戦争の足音が聞こえ、環境破壊の危機的状況に世界がさらされる現在、林修先生じゃないけど、こう言いたい。いま読むべき小説は、これでしょう。
(次回、国内編へと続く)