興味深いことに、ロシアのウクライナ侵攻に対して、世界の反応は一様ではなかった。つまり、誰もがあの特定の侵略についてロシアを非難したわけではなかった。ロシアのウクライナ侵攻でわかったのは、世界の地政学に変化が起きているということだ。つまり、守るべきルールがあるという国際的な自由秩序を、誰もが受け入れたり投資したりできるとは考えられなくなったのだ。
西側諸国は「これはひどい侵略だ、それを覆さなければならない」という一方で、アフリカやアジアの国々、そしてトルコのような中堅国の反応は実にさまざまだった。トルコは、ロシアと西側諸国の間の外交ブローカーとしての地位を確立しようと躍起になっている。多くの国々にとって、ロシア、中国、米国との関係を再構築するための中堅国、地域大国としての関係を再構築する絶好の機会だったのだ。この危機を利用しようとする国々が、世界システムの分断を引き起こしている。
それ以前から新型コロナのパンデミックを経て、戦略的優位性、経済的競争力、サプライチェーンの回復力を確保するために、世界の国々は戦略的同盟、日和見的同盟をつくろうとしてきた。世界の地政学的な分断はさらに深まっている。
最近のCO27でも見られたように、私たちには2つの圧力がある。一方は気候変動対策として化石燃料への依存を減らそうという力。気温上昇1.5°Cの目標を達成するため、石油とガスを段階的に削減し、2030年までに排出量45%削減を目指している。
しかし他方で、COP27に参加した多くの国は、天然ガスの取引、特に海底油田の開発を進めようと意気込んでいた。気候変動の対策と引き換えに、何十億ドルものガス収入を得られる可能性を放棄するつもりはない、というのが各国の言い分だ。
現在のエネルギー危機は、石油やガス、石炭といったエネルギー源が、ある特定の地域や場所で発見されていることに起因する。
同時にエネルギー危機は、クリーンエネルギーへの移行も加速させてきた。ウクライナの影響で、クリーンエネルギーや低炭素エネルギーへの投資はさらに進むだろう。多くの国がエネルギー供給の再編成をしている。最終的には、エネルギーの安全保障が気候変動に取って代わられるかもしれない。
気候変動がさらに深刻化すれば、必然的に国境はよりオープンになる。地球のさまざまな場所に人が住めなくなり、何千何万という人々が移動するようになるので、日本や西ヨーロッパ、アメリカのような国は、好むと好まざるとにかかわらず、多くの人々を自国に受け入れていくことになる。
国境の壁や柵はいくらでもつくれるが、結局、実際には機能しない。気候変動によって維持がますます難しくなっている。国境はよりオープンによりアクセスしやすくならざるをえないのだ。
クラウス・ドッズ◎ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校教授。英ブリストル大学で博士号取得。エディンバラ大学を経て、1994年から現職。専門は地政学。近著に『新しい国境新しい地政学』(東洋経済新報社、町田敦夫訳)など。